羽化・3








「……、……」


テオ。

そう動きかけた唇を強く結ぶ。


そんな顔はさせたくない。

ただ守りたいだけなんだ。

傷付けたのは自分なのに俺の方が泣きそうだ。


この後部屋に戻ったら一番最初にごめんって抱き締めて、大好きなんだってたくさん言って、ちゃんと全部話して───。


そう考える端から全然違うことが浮かんでくる。


ここから侯爵邸は馬車で半刻。

侯爵領までは四日。

だけど馬を変えながら休まず走り続ければ三日はかからない。


(……考えるな)


侯爵領を西へ抜けた先にある隣国は十日以上かかるけど、それは馬車を使ってマトモな道を行く場合だ。山を直接突っ切って駆け抜けられる俺ならその半分以下で辿り着ける。最短ルートは頭に入ってるから、休憩を最小限にした全速力ならもっと速い。


(考えるな……!)


すぐに合図をと思うのに、鈍く動く思考がと邪魔をする。


残された花の場所も研究管理に関わっている人間も知っていた。

国家機密なんじゃと慌てふためく俺に口の前で指を立てて笑った先王は、女王として立つわけでもない孫姫の婚約者に本当になんでも教えてくれたから。


口頭でのやり取りは全部覚えてる。

その意味を深く考えたことなんてなかったけれど、そうやって溜め込んできた知識が今すぐ動けば確実に助けられるのにとしきりに訴え、迷わせた。


「アースィム様、このまま私の屋敷にいらっしゃいませんか?二人で食事をして……」


弾んだ声が耳を滑っていく。

リカルドは部下を気にしない。

夢中になって話す瞳は俺のことしか映さない。

気にするくらいならとっくに薬を与えているはずで、だからきっと、彼らは。


黙り込んだ幼馴染み達の視線が鋭く険しくなっていき、テオに横並ぶ。それは俺が中央に立つよりも余程しっくりくる光景だった。


「そうだ、兄上にお願いしてアースィム様のお部屋を屋敷に用意致しましょう!そうすれば私がいつでもお側に侍ることが出来ますから、アースィム様もきっとご満足を」

「ベラベラとよく回る口だな」


地を這うような声がリカルドを遮る。

前のめりになるイザーム達を制するようにテオが片手を持ち上げた。

その、僅かに曲げられた小指に弱く瞬く。

俺を見据える凛々しい顔に痛みはもう、なかった。


「アースィムは私の伴侶だ。わきまえろ」


テオは大国アルストリアの王太子で、この国で最強を競う剣士だ。

空気を震わすような圧迫感にリカルドが顔色を変えた。


「お、王太子配殿下は、私をお望みで、」

「貴様に直答を許した覚えはない」

「…っ…」


引き攣った顔で笑おうとして本気の怒気に息を呑む。

マメの跡もないキレイな手の持ち主が、戦場を経験しているテオを前に腰を抜かさなかっただけ大したものだなんて、どうでもよくて。


器用に曲げた小指にテオの気持ちを知った。

幼馴染みに非常事態を伝え、リカルドへ言葉を放つ間もその視線は俺から外れない。

かつてないほどに怒っているくせに俺の応答を待っている。信じてくれている。


ヒュウと鳴った場違いな口笛はカーミルだった。

テオを褒めるだなんて珍しいと思い、そりゃそうかと納得する。

クルシュの民はカッコよくて強い人間が好きだ。


(……テオは、本当に……)


真っ向から射抜く赤い瞳にいよいよ泣いてしまいそうになった。

テオはずっとそうだ。

嫌なことから目を逸らさない。

守りたいだなんて傲慢だ。

誰かに守られるような弱い男じゃない。だから惹かれたんだ。


(……何してるんだ、俺は)


空き手を握る。

握り締めたら皮膚がぶつりと裂けたけれどそんなもの少しも痛くはなかった。

痛いのはテオで、苦しいのは近衛騎士達だ。

ゆっくりと瞼を伏せる。


───強く、誇り高くあれ。


クルシュに生まれた子ども達は戦い方の前にそれを教わる。

俺に誇りなんてあっただろうか。


王子や王女としての責任、期待。

そんなものを一身に受ける兄や姉に両親は厳しかった。だけど訓練から逃げ回ってばかりの俺は叱られたことなんてない。歳の離れた末っ子に家族はとても甘いから。


クルシュの男で王子なのに、戦い争うことが苦手な自身を強く恥じた。

そしてそれ以上に、毅然とした幼馴染みの背に憧れ、羨んだ。


同じように育ったはずなのにどうしてこんなに違うんだろう。

どうして俺は、守られてばかりなんだ。


思春期あたりから、明るくて優しかった女達が俺にだけ不自然な態度を取るようになった理由がわからなかった。聞きもせず、意気地なしでモテないからだと自分がつけた理由それに納得した。

騎士達にだって直接確かめていない。

触らなきゃいいとその場凌ぎで誤魔化そうとしていた。


自分が臆病な弱虫だと自覚していたから、人からの評価を知るのが怖かったんだ。

だから人目ばかり気にして、目を閉じて耳を塞いで、流されるまま生きてきた。


一番最初に会ったあの日。

痛みを堪えて立つセオドアを泣かせたくないと思ったのは嘘じゃない。


───嘘じゃないから。


地面に血が一滴、沁みていく。

目ざとくそれに気付き苛立った足が一度、地を叩く。

返事を催促する音だ。

幼馴染み達だけじゃない、テオも過保護だとほんの少しだけ口許が緩んだ。


(ごめんな)


伏せていた瞼を持ち上げる。

考えていた時間はそんなに長くない。

見上げてくるリカルドの目に不審はなく、俺はいつものようにヘラッと笑いながら、常に持たされている黒い手袋を取り出した。


二年前から一度も使ったことがない新品だ。

最初に渡された時には俺がこれを使うことなんてあり得ないと思っていた。


リカルドの後頭部の向こうで、テオ達に見えるようにゆっくりと嵌める。

ほんの少し見開かれたとおの目にまた笑い、そして手袋を嵌めた手で、テオのじゃない肩を撫でる。


「……正気か?」


眉間にギュッと皺を寄せながら注意深く問い掛けてくる。

黒い手袋は戦いの始まりを示すもの。

それを嵌めた俺が最初に口にした名前が───敵だ。


「たまにはいいだろ?リカルドとはあんまり話したことないし、近衛がいるから心配もかけないし」


開き直ったわけでも自暴自棄ヤケになったわけでもない。

正しい判断だなんて到底思えないし、もし失敗したらと怖くて堪らない。腹に力を込めていないと声が震えてしまいそうだ。ただもう逃げたくなかった。


(俺は大将で)


過保護に守られたいわけじゃない。


(セオドアの伴侶だ)


隣に、並びたいんだ。


だから言葉を紡ぐ。

部下の命をなんとも思わないような男相手に、親しげに。


「でも、忙しいかな」

「仕事の調整はいくらでも致します!アースィム様からそのようなお誘いを頂けるだなんて、身に余る光栄ですが、その……」


今の今まで怯えていたっていうのにわかりやすく喜色を浮かべ、語尾をぼかしたリカルドが表情を曇らせる。

窺う先はもちろんテオで、宥めるようにもう一度肩を撫でた。


「友人との交流くらい許してくれるよ。そうだろ?」


時間が経つにつれて香りが重なり濃密になる甘い匂い。

それがいくら思考を阻もうとしてきても、ポタポタと地に滴る血のおかげか随分と冴えていた。

テオ達にはバレているけどリカルドは気付かない。手袋が黒くて良かったと思う。


「私が許すと本気で思っているのか」


友人と呼ぶには無理がある距離にテオの怒気が強まる。情けなく眉尻が下がった。


「何も城から出て屋敷に行きたいって言ってるわけじゃない。俺だってたまには息抜きしたいんだよ」

「言うに事欠いて息抜きだと?おまえが何の息を抜くと言うんだ?」


冷たく笑うテオは様になっている。

様になり過ぎてなんだか悪の親玉みたいだ。テオが悪なら俺もそっちがいいとかバカなことを考えながら、キュッと唇を結んだ。油断したら泣きそうだ。


リカルドの肩を撫でる手の人差し指を不自然にならない程度に立てる。それから、その指で近衛騎士を示した。


「アースィム様……?」


そこにきてリカルドは初めて眉を寄せた。

合図に気付いたわけじゃなく、その顔には単純な疑問だけを浮かべている。


それはそうだろう。

この二年、テオとの不仲説なんてウワサされたことないし、リカルドにはついこの前までは名前を呼ぶなと言っていた。急にこんなことを言い出したらヘンに思うのは当たり前だ。思わなかったら逆におかしい。


「リカルドの側はなんだかホッとするんだ」


だから胸元の男と目を合わせたまま会話を続ける。

香水のせいで離れがたくなっているんだと───よく効いているだけなんだとリカルドが思い込むように。


この国の人間は王太子が大好きだ。

王太子配が王太子じゃない人間の横髪に頬を寄せたことに、細い悲鳴みたいなのがあちこちで上がった。

ダメ押しでスンと鼻を鳴らす。

匂いを嗅ぐ俺に、リカルドの口端がニタリと歪んだ。


「アースィム様、このような場所で大胆な……それに王太子殿下の御前です。いけません」


恥ずかしがり嗜める言葉はただのフリだ。

どんどん醜く歪む笑みは勝利を確信している。


「私の側は落ち着かないとでも言いたいようだな?」

「そうじゃないけど……」

「ないなら何の真似だ」


厳しく鋭さを増していく口調は聞き慣れてしまった尋問なのに、いつものように膝に乗ってくれたり顎を鷲掴みにされてキスされたりしないだけでこんなにも心許こころもとない。

どうしたって今すぐ抱き締めたくなる衝動を耐えるために短く息を吸って吐いた。


リカルドが望んでいる勝利ものがなんだって構わない。

俺がやることはもう決まってるし、逃げずに冷静になって考えれば、香水そのものに侯爵が関わっているかいないかなんて関係がないと気がついた。


目の前には中毒を起こしている男が二人いて、彼らは近衛騎士で、隊長に追従出来る立場にいる。

その責任を団長に問うのは当たり前。

知らぬ存ぜぬは通らないし通さない。


この後の動きかかる時間、かけられる時間。

頭の中で計算する。


最善は侯爵領を制圧して露見するまでの約三日……いや、ギリギリ引っ張って四日間で終わらせること。

短期決戦だ。

無駄な時間は掛けられない。

少しでも気取られたら、逃げられる。


隣は属国、治外法権は有効で。

花を取り上げて関わる人間を抑え込む。王族も貴族も全員だ。ネズミ一匹逃がさない。


何もかも無謀で作戦とすら呼べない力技。

切れる最大で唯一のカードは、隣でも花が禁制指定されているということだけ。


逃がして声を出されてしまえば終わる。

そうなったら俺はもう、アルストリアに戻れないだろう。


いくら属国といえども王族相手なんだ。

やろうとしている暴挙に高貴な血筋への敬意とか配慮とかは一切ないし、片付く前に表沙汰になれば国内どころか国外からも叩かれることは間違いない。それはテオが庇える範囲を軽く越えている。


それでもゴリ押そうとする後先考えない脳筋さは、いかにもクルシュらしいと内心で少しだけ笑った。


「そんなに怒らなくても……話すくらい、いいじゃないか」


しょんぼりとした声は作らなくたって出た。

ズキズキと胸が軋むし、テオは演技なんかじゃなくて間違いなくブチ切れてるし。

だからこそ、突然始まった痴話喧嘩に周囲の人達も息を詰めているんだとは思うけど。


ざっと見渡しておかしな表情をしている人間がいないか確認する。

悲しそうな文官、青褪めている侍女、茫然としている騎士や貴族。

浮かべる様々な感情は大体マイナス方面である中、ひとり、引き上がった口許を隠すように片手を持ち上げた。


(国境の……)


ルーゼン伯。

侯爵と親しく話す姿を何度か見かけたことがある。


「呆れて言葉もないとはこの事だな」


温度すら失った声が無感情に吐き捨てる。

いつもイライラぷりぷりと怒るテオらしくないそれは俺への線引き。

静まり返った周りにも、すごくわかりやすく聞こえたに違いない。


「良いと言うまでその顔を見せるな。当面の寝床はそこのお気に入りにでも媚びるんだな」


向けられた背中に今すぐ縋りつきたくなった反面、ホッとした。俺の視線をイザームとサジェドが注意深く追っていたから。

イザームは俺以上に地理に詳しく、サジェドは人の顔と名前を覚えるのが得意だ。


近衛の様子に気がついたんだろう。

毒や薬に精通しているカーミルが顔を向けると、それに応えるようにディルガムは右手首を掻いた。

肉焼き以外は大雑把だし無関心だけど、お願いしたらやる気を出すしキッチリ仕事をしてくれる。

だから、大丈夫。


(テオと離れるのは嫌だな)


そりゃ、隣に行くつもりだからしばらく会えないし一緒には寝れないんだけど。


(離婚も、嫌だなぁ……)


万が一、俺が間に合わなかった場合の為に。


この後真っ先にするつもりなのは離婚申立書の作成だ。

テオに渡したら燃やされそうだからイザームを通して王弟に預ける。甥と国を想う彼なら、きっとちゃんと使ってくれる。


「いくら私が気に入らないとはいえ、貴方にあのような物言いをなさるとは……!」

「リカルド、いいんだ」


離れないまま憤るリカルドを見下ろした俺は、はぁと深くため息を吐いた。


「テオは毎日あんなかんじだから」


怒っているのはいつも通り、いや、いつもの百倍くらいなんだけど。


普段のテオならあんな風に背中を向けたりしない。

問答無用で部屋まで俺を引き摺っていくし、その後にあるのは厳しい尋問で、納得いくまで解放してもらえないのは身に沁みてわかってる。


いつだかの訓練の後に暑くてシャツを脱いだ時や迷子だっていう貴族の手を取って案内した時なんか、本当に酷かったんだ。


腹が立ち過ぎてそうしなかったんだとしてもだ。

寝床を媚びろだなんて口が裂けても言わない。

そんなことを言うくらいキレてたら剣を抜くに決まってる。

俺の嫁はすごく勇ましいし、浮気は断固許さないが口癖だ。だからちゃんと伝わってる。大丈夫。


「さすがにソレはねぇんじゃねぇか?」


去って行くテオの背中を眺め、それまで黙っていたイザームが呆れた声を出した。心底嫌そうに眉を寄せてリカルドを睨め付ける。


「まぁそう言うなよ」


俺を庇いに入ったのはカーミルだ。

俺とリカルドを交互に見ては肩を竦める。それだけでいつもの暴れっぷりが影を潜めるんだからズルいと思う。


「コイツよく見りゃツラ悪くねぇし、大将だってたまには、なァ?」

「マジで言ってんのかおまえ」

「つかさ、大将がイイっつってんだから別になんでもよくね?」


ますます嫌がったイザームにサジェドが口を挟む。


「俺らがゴチャゴチャ言う必要ねぇだろ」

「だよなー。王太子に飽きたんなら国に帰りゃイイし」


ディルガムに至ってはテオに興味がないのが丸わかりで、賑やかにアレコレ言い出した四人をじっと窺っていたリカルドの機嫌は目に見えて上がっていく。


「アースィム様」

「うん?」


呼ばれて、ニコリと笑った。


「イザーム殿は、不問とは参りませんが……」


(……イザームが狙いなのか?)


サジェドの言葉が甦る。

あの時は必死だったから流してしまったけども、リカルドがわざと人を集めたかのように言っていた。

考えすぎだと跳ね除けるには確かに不自然なことばかりだ。


汚れてもいない棒を、ゴミだったというだけで手袋を変えるくらい嫌がる男がわざわざゴミ捨て場の近くを通るだろうか。近衛の隊舎も専用の訓練場も近くにはないのに。


小屋の横にある、幹がしっかりした木の上は俺のお気に入りの昼寝場所だ。普段は全くひと気がなくてコソコソするには打ってつけなんだ。

そんな場所に、いきなりこれだけの人数が集まるのはどう考えてもおかしいじゃないか。


じゃあ名前を呼んだのはわざとで、イザームに手を上げさせるため?


一発食らったらたぶん死ぬけどなんて当たり前に浮かんだ考えは振り払う。俺がイザームを止めるのはわかりきってる。


リカルドの身分が身分だ。

事情がなんであれこれだけの目撃者がいたら言い逃れは出来ないし、テオだって罰しないわけにはいかないだろう。


(でも、何のために……)


イザームは幼馴染みが関わると本当にキレやすいけど、いつもは面倒見が良くて世話焼きの頼れる男なんだ。王宮騎士達からの信頼はとんでもなく厚い。

だから敵に回して何かメリットはあるとは思えなくて、いや、ルーカスが狙いなら。


そんな風に思ったところで見上げてくるリカルドにほんの少しだけ、眉間に皺が寄った。

処分をと口にしているくせに、それ自体にはたいして関心がないとばかりにイザームを見ない。


仄昏ほのぐらい愉悦を滲ませる瞳は俺のことしか見ていない。

ぞわりと肌が粟立った。


「……イザーム」

「はいよ。大人しく籠ってりゃイイんだろ」


「ありがとうございます、アースィム様」


うんざりとした顔で踵を返す背に、今度こそ安心したようにリカルドが体重を預けてきた。

まだ様子を窺っている周囲へのアピールかは知らないし、薬物漬けにして言いなりにしたいのか、抹殺したいのかもわからないけど。


───この男の狙いは、俺だ。


「大将、俺らも適当に散歩してくっからさ、出掛けるんなら声掛けろよ」

「くっついてくのも邪魔じゃね?」

「や、一応護衛だし」

「イザームどうなんの?」

「謹慎だろ、謹慎。マジウケる」

「絶対凹んでんじゃん、からかってやろうぜ!」


ゲラゲラと品の無い笑い声と軽口の応酬で、離れて行く三つの背中。

あまりにもいつも通りだけど、去り際、サジェドが片手をグッパーと動かした。


了解と後での合図だ。会話が会話だから微妙な気持ちになった。

それに、実際には謹慎なんかしないイザームのことを本気で揶揄うつもりでいると思う。

普段から凹む俺で遊ぶくらいだ。面白ければなんだってネタにする無神経なところがあるんだ。


「……あの、散歩に付き合ってくれる?」

「もちろんです、私がお側におります。さぁ、参りましょう」


気を取り直す。

ため息を吐いてから切り出した俺に、即答し、ようやく離れた身体。心底ホッとした。

手袋の裾から伝った血が見つからないように足で砂を掛けながら、反対の手を差し出す。


「嬉しいな。こうやって誰かと歩くのは初めてだ」

「そんな……とても光栄です、アースィム様」


差し出した手に手が重なった。

上手いことテオに煽られてくれてたらいいと思う。

寝床を提供してくれるなら屋敷に行く理由になる。ハデな言い合いの後だから誰も不審に思わないだろうし。


後で来るって言ったサジェドを通して薬の調合だけしっかり伝えよう。

話す時間はほんの少しでいい。

伊達に戦闘民族をやってるわけじゃない。

周りに怪しまれずに作戦を伝える術は山ほど叩き込まれている。


「……まさか殿下が……」

「王太子殿下と決別されるのか……?」

「謹慎なんて……」

「一体どうしてこんなことに」


すれ違い様に聞こえる動揺の囁き。

突き刺さる視線はもう、気にならなかった。




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