第3話 女子の間で

 神崎家が出してくる菓子は、洒落た和菓子が多かった。

 本来であれば、ポテトチップスやチョコなどが食べたい年ごろの彼らにとって、ここで出される菓子の類は、空腹を満たすものではなく、精神を満たすものである。

 それは、インテリな神崎 優にとっては丁度良い午後の癒しになっていたが、盛んな高校生である十文字真一にとっては、少し物足りないものであった。

 出されるお茶も、これまたいかにも高そうなブラックコーヒーか、抹茶と言うチョイスであり、真一には少し噛み合わない。


「お前ん家って、なんだか全体的に豪華だよな」


「そう? 普通じゃない?」


 これを普通と言う優の感覚が、真一には違和感でしかない。

 それこそドラマにでも出てきそうな典型的な洋館。これは絶対に年末年始に殺人事件が起こるヤツだと真一は思う。

 

「そういえばさ、この家ってメイドとかいないの?」


「なに言ってんの、居る訳ないだろ」


「いや、絶対にいるって! まさか、本当は『坊ちゃま、お支度が整いました』とか言っちゃってさ! 居るんじゃないの? その辺に! ってか、なんだよ『支度』って! エロいな、お前!」


 バカな冗談に笑いつつ、半ば呆れ顔の優であったが、これはこれで友人の少ない優にとって楽しいルーティーンでもあった。

 上品な和菓子を、遠慮なくバリバリムシャムシャと食べる真一を、何故か神崎老人は監視するように見ているのが恒例となっていた。

 真一は、部活終わりに優と合流して、ちょっとしたこの寄り道が楽しいと感じていた。

 こんな日常が、永遠に続くと思っていた、あの時までは。


「ゴホっ! グフっ! な、に、これ?」


 いつものように、神崎家を訪れていた真一は、その日に出された落雁(らくがん)を頬張っていた時に、それは起きたのである。

 真一は、てっきりこの水分が全くないパサパサの和菓子が喉に閊えたのかと思っていたが、実態はもっと深刻な症状だった。



「ちょっ・・・・なに・・優・・優!・・・・」


 優の名を呼ぶ真一の意識は、既に朦朧とし、危険な状態であることは本人も理解出来た。

 それでも、一体何が起こっているのかが理解できず、頭はパニック状態である。


「おじいちゃん!」


「ついに、遂にこの日が来たんじゃ! 優、そこを退きなさい」


「なんの事? おじいちゃん、救急車を呼ばないと!」


「いいから退きなさい!」


「おじいちゃん・・何?」


 薄れゆく意識の中で、優と爺さんが口論している事だけは理解出来た。

 ただ、どうしてこんな時に口論なんてしているのかは、解らず仕舞いである。




 次に真一が意識を取り戻した時、目の前には優が居た・・・・居たのだが。


「・・・・おい、何の冗談だよ」


「ゴメン、冗談では無いよ」


「随分低い声出すのな・・ってか、お前、裸?」


「ハハハ! そう言う君だって裸じゃないか」


 真一は思った。

 自分たちが一部の女子の間で、色々噂をされている事を。

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