第31話 今年の夏

「本当にありがとうございました! 私、自分の脚本に自信が無かったんです。でも、皆さんの演技を見ていて、私もっと頑張らなきゃって・・・・」


 涙ぐむ美弥子。

 公演は無事に終わった。

 大盛況の内に終了、なんとアンコールまでされたが・・・・アンコールって、どうやるんだ?

 全部が無事に終わったように見える演劇部だったが、俺と委員長、そして母さんの3人は、もう戻れない所に来てしまっていた。

 帰り路で、委員長が俺の腕に抱きついてくる。

 それを、冷ややかな目で見つめる母さん。

 そう、俺たちはおかしな三角関係に陥っていた。

 俺も薄々気付いてはいた、母さんが俺に対して向ける愛情が、母親のそれを少し超えてしまっているという事を。

 そして、委員長もそれを強烈に悟っている。

 その答えがこれだとでも言わんばかりに、委員長は俺に密着する。

 

「いいわよ、愛良ちゃん。どうせ私たち同棲しているんだから」


「母さん・・・・もういい加減にしろよな。気付いているんだろ、俺たちが・・付き合っているって」


「それがどうしたの? マサルと母さんの親子関係がそれで終わるわけじゃないわ。だって親子なんだから」


「そうだよ、母さんは女神様で、俺の母さんだ。今も、そして、これからもずっと」


「・・・・そうね、そうだわ」


 それで会話は終わり。そう、終わり。

 母さんは母親で、委員長は俺の彼女。

 いくら母さんが若くても、17歳でも(?)、この関係はこのままなんだ。

 でも、何故か母さんだけがそれに納得してないって顔をする。

 委員長は、何かを言いたそうな素振りを見せながら、俺と母さんを見送った。

 暗くなった通学路で街灯に照らされる委員長が、とても寂しそうに見えた。

 これは多分、嫁姑問題とか、そういうレベルの話ではない。

 俺と母さんは、無言で家に向かう。

 いつもは明るい(性格の)母さんも、今日は落ち込んでいるように見える。

 そう、俺たちはこれから話さなきゃならないことがある。

 それはきっと、あまり愉快な話ではない。

 重い足取りで二人は家に着く。


「解っているんだろ」


「ちょっと待ちなさい、ご飯の支度しちゃうから」


「母さん!」


 俺は、メシなんかよりも大事な話があった。

 母さんは、多分それを故意に避けている。


「夏は・・・・どうした?」


「どうして気付いちゃうかな?」


「やっぱり、母さんが何かしたんだね」


「・・・・」


「教えてくれないか? 母さん、どうして夏を消した? 高校2年の夏は一生に一回しか無いんだぞ」


「・・・・」


「答えてくれよ!」


 母さんは、珍しく無言のままだった。

 それが、この話を一層不気味にしてしまう。

 冗談であってほしかった。

 俺だって文化祭の直前に気付いたんだ。

 

 俺たち、今年の夏を飛ばしたって事。

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