第23話 17歳なんだから

「まさか、委員長も・・・・心が読める?」


「え? 心? どうしたの?」


「だって、今、履いてるって・・」


 すると、委員長は笑ってこう答えた。


「だって、星野君、ずっと私のスカート見てるんだもん」


 あー!! あ、あ、そう言う事ね、俺が、履いていないから、気になっていたと思われた?

 おいおい、それじゃあ俺、変態じゃん! 変態男子確定じゃん!

 

 ・・・・えー・・。


「大丈夫だよ、スカートがめくれないか、心配してくれていたんだよね・・・・優しいね、星野君って」


 いや、もう、マジ好き! 

 委員長の、こう言う相手に恥をかかせないような気遣いとかって、マジ感動なんですけど。

 でも、委員長が家に着いた時、彼女は一人になりたくないって、俺に囁いた。


 って事は、今日も委員長の家、誰もいない感じ?

 

 ・・・・・・


 母さん、ゴメン、やっぱエロいの解禁かもしれません。

 委員長は、自信をなくしていたんだと思う。

 今日みたいな日に、俺を引き留めて・・。

 それでも、俺の袖を摘んで離さない委員長の手は、まだ震えていた。

 だから、俺は自分の思春期を一端引っ込めて、委員長の側にいてあげることに専念しようと思った。

 二人で無人の家に上がると、委員長は部屋の電気を点けて行く。

 日が短くなったのか、電気の点いていない部屋はとても暗い。

 だから、委員長は恐怖に支配されまいと急いで電気を点けて回った。

 少し落ち着くと、今日はリビングでお茶をごちそうになる。

 沈黙が続き、俺は何か言わなきゃって思うけど、どうしてもさっきの演劇の事ばかりが頭に浮かんで話題を見つける事が出来ないでいた。

 そんな時、話を切りだしたのは委員長の方だった。


「お母さんの演技、凄かったね」


「うん、まあ、女神だからさ」


「そう言うんじゃなくて、今回ね、私、奥さんから星野君を奪う話でしょ。だから、解っちゃったんだ、お母さんが星野君をどれほど愛しているかって」


「そんな・・・・母親だから、それはそうなんじゃない」


「・・・・違うの、何というか、親子のそれを凌駕した何かが伝わってきたの。そしてね、あのシーン、私、お母さんの殺意を感じたのよ」


「殺意・・」


 鬼気迫る演技だと思ったけど、委員長が失禁してしまうほどの恐怖、それは薬が毒にもなるように、女神も魔女にすらなる可能性を感じた。

 委員長は、今日人間が受けるべき許容範囲を越えた、怒りや憎しみといった感情を、女神から直球でぶつけられたんだ。

 急に委員長は俺に抱きついてきた。

 

「お願い、強く抱いて」


 動揺する俺。

 きっと、混乱した委員長は、こうする以外に恐怖から逃れる手段が無いのだろう。

 俺は委員長の体を思い切り抱きしめた。


「・・・・もっと強く、もっと、もっっっと!」


「落ち着いて、大丈夫、俺はここにいるよ」


「うん・・・・うん」


 こんなに怯えて、さすがにちょっと怒りを覚えた。

 素人にやりすぎなんだよ母さんは。

 帰ったら説教だな。

 そんな事を考えていた時、それは突然の事だった。


 委員長が、俺の唇に自分の唇を重ねて来たんだ。

 そう、人はこれをキスと呼ぶ。


「・・・・委員長?」


「ごめんなさい、でもね、私、星野君を誰にも渡したくないの。相手がお母さんでも」


 委員長の瞳に、俺が写り込んでいるのが解るほど、俺たちの距離は近かった。

 委員長は、静かに目を閉じる。

 それが合図なんだと言うことくらい、俺にも解る。


 17歳なんだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る