第14話 なんとなくそれでいい
愕然とした表情をしていたことだろう。
俺は、自分の顔が、日本人そのものと認識していた。
それが、さっき委員長のメイクによって、外国人のような容姿だという事に気付かされた。
そう、これは俺の認識が日本人顔でモテない男子高校生と言う位置から、対角線上に実はあったのだと知らしめる形となった。
時間が経つに連れて、俺は最初からこんな顔だったような気がしてくるから不思議だ。
どうして今までの俺は、自分が典型的な日本人顔だと思い込んでいたんだろうか。
目の色も、別に青くない。
髪色も脱色はしてなくても少し茶色がかっている。それは日本人の男なら、だいたい同じようなはずだ。
少し鼻が高い? 少し彫が深い? 良くあることだ。
第一、俺の母さんは女神様、すこしくらい顔が西洋風なんて当たり前・・・・
あれ? 俺ってさっきまで、自分の顔が母さんと違い過ぎることに悩んでいなかったっけ?
帰り道、俺は母さんと二人で車に乗って、買い物をして帰るところだった。
近所のスーパーに降りると、母さんと俺は買い物かごを持って、何気なく買い物を始める。
母さんは、タイムセールの魚に夢中だ。
そう、何も変わらない日常。
それがとてつもなく違和感でしかない。
「なあ母さん、俺ってさ、母さんにあまり似てないよな」
「そうね、あんたどちらかって言うとお父さん似だもんね」
「それにしても似てなくない?」
「なーに? どうしたの? そうでもないんじゃない?」
買い物客は、俺と母さんを大体二度見する。
それほど、周囲の日本人とは顔かたちが違うって事なんだろう。
俺はこれまで、見られているのは母さん一人だと思っていた。
でも、自分がイケメンで、顔かたちが白人寄りだって解ると、実は見られているのは母さんと俺の二人なんだって気付く。
中には赤面してヒソヒソと話をしている主婦もいるくらいだ。
そうか、俺は自分で思っていたよりも、目立っていたんだな。
委員長が、俺を演劇部に入れたい理由も、なんとなく今なら解る。
俺の人気にあやかって、部員を確保しようとしているんだろうな。
ほんのさっきまでは、想いもよらない話。荒唐無稽に思える話でも、今なら解る。
だから、思い切って俺は、委員長の提案を受け入れようと思った。
「え? 本当?」
次の日、一番に委員長に演劇をやってもいいと話すと、彼女は本当に喜んでくれた。
俺なんかが誰かの役に立てるなんて、それ自体が嬉しいことに感じた。
「でも、私が女神様なんて、やっぱり自信ないよ」
「なに言ってるの。委員長じゃなきゃ誰もできないじゃない」
「・・・・相手が星野君だと、余計に私、貧相に見えちゃうよね」
「そんな事ないよ。綺麗な女神様だと思うよ」
俺がそう言うと、委員長は恥ずかしそうに俯いてしまった。
あれ? なんだか俺、いつもより大胆な発言が多くないか?
顔が変わったと認識した途端、俺は別の人間にでもなったように発言内容も大胆になった。
敢て言うなら、白人のように一歩一歩の歩幅が大きくなったように思える。
そういえば、体もこんなに大きかったっけ?
歩幅とは、会話の大胆さを表現しているつもりだけど、こうして見ると体も大きいように感じるから不思議だ。
本当に歩幅が大きくなったように思える。
ただ不思議なのは、「変わった」と感じる俺と「前からそうだった」と感じる二人の俺が居るように感じることだ。
この二つが共存しているので、顔が変わったと思っても、勘違いじゃないかって考える俺もいるから、なんとなくそれでいい、と思ってしまう。
こうして俺は、委員長と後輩の荒木とともに、公演に向けて練習する日々が始まったのである。
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