キャラクターブーム

霜月ミツカ

キャラクターブーム

 子どもの頃から毎日毎日絵を描き続けていた。


 性格が暗い、顔が悪いといじめられても、絵を描くことで自分を保つことができた。


 中学生の頃にチワワと悪魔を掛け合わせた「チワビル」を生み出したときに、わたしの人生にようやく光が見えた。どんな友達よりもわたしはチワビルが大事だった。


 チワビルのお手製のマスコットをつくり、周りから「気持ち悪い」と嘲笑されてもわたしは平気だった。


 自分のつくったキャラクターの存在にずっと慰められ続けていた。


 高校を卒業し、イラストの専門学校に進み、SNSでチワビルの絵を描き、投稿を続けた。


 オリジナルイラストで食っていくことはむずかしく、昼間は印刷所で働きながら絵を描き続けた。


 わたしの投稿につく「いいね」はよくて10。それでもわたしを支えてくれたチワビルを描き続けた。


 四十歳の誕生日。


「貴殿のイラストに感銘を受けました。ぜひ弊社で商品化させてください」


 SNSにそんなDMが届いた。超有名キャラクターグッズの制作を手掛ける会社からだった。


 人生でこんなに素晴らしい誕生日プレゼントをもらったことはなかった。


 それからあれよあれよとチワビルは脚光を浴び、トップスターがチワビルのマスコットをつけたことで人気に爆発的に火がついた。


 名の知れたアイドルも、インフルエンサーもみんなチワビルのグッズをつけている。


 フリマサイトにはチワビルの偽物が出品されるなど陰日向で生きていたあの頃には信じられない社会現象となった。


 しかし――。


「チワビルに小型の盗聴器が入っていた」


 とある俳優のSNSの投稿で、チワビルの解体をする人々が続出。「本物」のチワビルには小型の盗聴器が仕込まれていた。


 わたしのSNSもまたたくまに大炎上。この火を鎮火する手段などどこにもない。


 急いで制作会社のZ氏に連絡を入れた。わたしと同じようにあわを食っているかと思いきや、冷静な声色だった。


「おかげさまでいろんな情報を仕入れることができました」


「……は?」


「Yさん、わたしはずっとあなたが妬ましかった。覚えてないでしょう、同じ中学だった」


 そう言われてもZ氏のことは思い出せない。


「あなたはずっとチワビルに夢中だった。SNSで見つけたときはびっくりしました。ようやく出会えたって。だから利用させてもらいました」


 受話器の向こうのZ氏は笑っていた。


「死なば諸共です」


 電話が切られた後、Z氏も制作会社も姿を消し、この国では犯罪が相次いだ。わたしは空っぽになり、すべてを失うことになった。

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