『魔獣と戦う僕より、ヤンデレな幼馴染の方がよっぽど危険だった』
ブヒ太郎
第1話
僕は15歳の時に局長ガレンにスカウトされ、3年間の仕事の成果から「局長付き事務員」という肩書きを得ていた。 所謂――
「便利な雑用係……だよね、僕の仕事って。そりゃ、お給料はいいかもしれないけど、任務に雑務はちょっとしんどいな……」
今日も戦略事務局宛ての書類を片付けていると、その中に、見覚えのある名前の手紙を見つけた。
リア・エステル。自称・お嫁さん。
同じ孤児院で育った仲間で、よく一緒に遊んでいるうちに、リアから「将来私、ノクスのお嫁さんになってあげる!」と一方的な婚約宣言をされた。 僕が13歳の時に局長にスカウトされ、彼女と離ればなれになって以来、毎月手紙が来るようになった。
1年前は「気になる男ができた」と書いてあったから、「おめでとう」と返事を送ったら定期連絡が途絶えた。 これであいつも幸せになったかぁ……と思っていたのだが、2か月もすると「少しは止めろよバカヤロウ」とだけ書かれた手紙を送りつけてくる始末だ。
顔の素材はいいのに、中身がアレなんだろうか……。といっても、もう何年も会っていないので、美人に育ったのか、はたまた……。
そんなことを思いながら封を開けて読むと、なぜか僕に会うために入隊試験を受けるとか書いてある……。
「いやいや……待て待て……会いに入隊!?いや、会いたいなら手紙でそう書けばいいじゃないか……なんでわざわざ……って、入隊試験って1週間前に終わってるよな。ということは結果も出てるはず、探してみるか」
僕はファイリングされていた合格通知者名簿を開き、彼女の名前を探した。
「あった……え、本当に入隊したの?……『未来のお嫁さん、会いに来てあげたよぉ』ってやるつもりか?いや、勘弁してくれリア……」
まだ13歳の頃の幼い姿しか思い浮かばないんだよなあ……。3年も経ってるから、さすがに変わってるとは思うけど。 僕はリアの幼かった頃の姿――まだ背も小さく、いつも元気いっぱいに駆け回っていた少女の面影を思い出しながら、ため息をついた。
……不安だ。リアのことだ、変なこと言い出してないか不安だ……。あいつ、子供の頃から突拍子もないこと平気で言うからなあ。「ノクスのお嫁さん」とか大声で言い回ってたら、僕の立場が……。
うーん……確かに軍で働くことになったとは教えたが、局長付きとは言ってないし、バレることはないだろう。 それになんだかんだで特殊な役職ではあるし……。別に教えなきゃバレないか。 あいつもきっと諦めるだろう。 それに男は僕一人だけじゃないんだ、あいつに合った男と運命的なめぐり合わせ、みたいなのがきっと起きるさ。 信じろ僕の中のお兄ちゃん!
そんな一抹の不安を抱えながら、僕は淡々と仕事をこなし、日が暮れようとしていた。
仕事を終え、廊下を歩いていると、あてもなく彷徨っている新人らしき子を見かけた。
「どうされました?新人の方ですか?どちらへ行く予定ですか?良ければご案内致しますか?」
声をかけると、彼女の背筋に寒気が走ったように見えた。 うわ……やっば……新人ってバレてる、しかも今から辞めますって言いに行くところなのに……どうしよう、なんて考えているんだろうか。 彼女は少し考えてから、振り返りざまに答えた。
「お願いします!他国に婚約者がいるってわかったので、この国から出るためにも私、除隊しないといけないんですっ!」
……すっごい面倒なこと言いだす子がいたもんだ。 希望通り辞めていただこう。
「・・・・・・あ、そうなんですね。それは素敵な理由ですね。折角入隊されたのに残念ですが、そんな大事な理由があるなら仕方ないですね、ご案内致しますよ」
僕は愛想笑いを向けながら答えた。 すると、彼女は目を丸くして、黙り込んでしまった。
「あの・・・どうされました?」
彼女は恐る恐る口を開いた。
「ノ、、、、、ノクスお兄ちゃん・・・?」
「・・・・・・え?」
一瞬、時が止まったような静寂が流れた。
嘘だろ……まさか、この「他国の婚約者」って……。
「ノクスお兄ちゃんよね!?わあああ!やっぱり運命力!!私たち引き寄せられてる!!」
「ちょ、ちょっと待てリア・・・今、他国の婚約者って言ったよね?それって・・・」
「ノクスお兄ちゃんのことよ!だって手紙に軍にいるって書いてあったから、他国の軍だと思って・・・」
この子の中では僕が他国にいることになってたのか……。
こうして、運命の再会(?)を果たした僕たちの物語が紡がれる。
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