ぶどうパンの記憶

shiki

第1話

「懐かしいな。アルミのお弁当箱なんて、まだ使うことあるんだ。」

幼稚園からのお知らせプリントを眺めながらハルミはつぶやく。


冬場は保温庫に入れるため、アルミのお弁当が箱が必要らしいのだ。


さっそくネットで検索すると、ズラッと並ぶアルミのお弁当箱。

独身時代には流行りのスープジャーや2段式などで凝ったお弁当を作ったハルミにとっては、アルミのお弁当箱がむしろ新鮮に映った。


ハルミが保育園に通っていたのはもう30年近く前になる。

その保育園は味噌汁やスープといった汁物が給食として出され、お弁当は毎日持参だった。

ただ、お弁当を用意できなかった保護者の救済措置として、子に300円持たせると保育園が代理でパンを購入してくれるという仕組みがあった。


ハルミにも何度か経験がある。

大きなバットに入れられたパンは種類は様々で、到着するや否や園児たちが一斉に駆け寄って我先にと好きなパンを取っていく。

ハルミはいつも積極的にその輪に入れず尻込みして、むしろ皆が群がる姿に嫌悪していた記憶すらあった。


残ったパンは1つ2つ。

いつも子供の顔くらいあるような大きなぶどうパンだった。

干しぶどうが不人気なのか、大きさゆえか、いつも余っていたぶどうパン。

ハルミはその大きなぶどうパンを給食の汁物で流し込んで食べていた。


どうしてあんなに捻くれた性格だったのかしらとハルミはふと考えてしまった。

いつも一歩ひいて、人の顔色ばかり窺っていた。

親からの愛情はまっすぐ届いていたし、十分だったのに。

わが子を産んでから、娘の疑うことのないストレートな我が侭に面食らったことはあった。

でもそれが愛おしくて自分の幼少期と比べたことなどなかったのに。

娘が幼稚園に通うようになって、いわゆるママ友を作れないでいたハルミは、今の自分とあの頃が重なってしまう。


気を取り直して娘を呼ぶ。

「冬用のお弁当箱が必要なんだけど、どれがいい?」

ハルミはスマホの画面をスクロールさせながら聞いた。


『うーんとね、どうしようかなあー。キティちゃんもいいな。ポケモンもー。じゃあね、どっちも欲しい!』

娘が目を輝かせていう。


ハルミはニッコリ笑って

「さすがに1つだよー!」とおでことおでこをくっつけてグリグリした。

娘はケタケタと笑う。


翌朝、いつものように幼稚園バスを待つ


ハルミはママ3人組にいつもより少しだけ近づき、少しだけ大きく息を吸い込んで

「おはようございます!あの、昨日のプリントって・・・」と声をかけた。


『あー!お弁当箱でしょ?あれって意外と高かったりするよねー』と一人のママが返事してくれた。


ハルミはいつもより晴々とした気持ちで帰路についた。

手にはコンビニで買ったよくある『レーズンバターロール』

ぶどうパン、意外と好きなんだよね。

微妙な矛盾に苦笑いしたハルミは、半分に割ったぶどうパンの片方を一口で頬張った。






































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