第3話 伊藤カイジ
その労働施設にはカイジもいた。カイジのことは漫画本になっているので、存在自体は誰もが知っている。漫画では脚色されて貧乏人たちのメシア然として描かれているのだったが、実際のカイジは、まだ給料日に配られるペリカで散財して柿ピーやビールを飲む堕落した生活を送っていた。
不思議だったのは、そんな有象無象の存在である伊藤カイジが、どうしてメガヒットを記録した漫画本の主役になったのかだった。わたしはそれを、B班の班長に聞いた。
班長はニヤニヤとした表情で、わたしに「チンチロが今晩開かれるんだが」などと地獄の誘いを申し出るのだった。
「カイジはどうして漫画本の主役になったんですか」とわたしは聞く。
「公明くん、それはとても奥深い質問だね」
「見ていても、ただ堕落をしているアホ野郎にしか見えないんですが」
「その質問には上手には答えられないよ。今晩、皆でチンチロをでもすれば分かるんじゃないかな」
「チンチロが地獄への片道切符であるのは漫画で読んで知っているんですよ」
「漫画で描かれていることが全てではないさ」
「嘘が書かれているということですか?」
「公明くんは、嘘が嫌いかな?」
「大嫌いですよ」
「今晩、皆でチンチロをすれば納得のいく答えが出ると思うよ」
「チンチロはしません」とわたしは言った。
わたしはまだ入所して数日で給料日を経由しておらず、ナケナシの数ペリカすら持っていなかったのだ。
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