Sotto lo stesso ombrello
紙の妖精さん
1
雨がまだ小さな粒で空から落ちてきて、街路のタイルは淡く光を反射している。私は教室を出て、傘を開く手が少し震えているのに気づいた。隣に立つ友達の傘と自分の傘が偶然重なり、ほのかに温かい空気を共有するその瞬間、胸が小さく揺れる。傘の下に隠れた彼女の目は、まつげの奥で何かを迷わせているように見え、私はその微細な揺れを逃さずに感じた。
笑い声が、遠くのほうから波のように届いた。その声が自分に向けられたのか、それとも通りすがりの誰かのものなのか、判断できないまま、耳は音を拾い続ける。周囲の自動車のエンジン音、落ちる雨のリズム、街路樹の葉のざわめきに混ざって、声は背景の一部に溶けていく。私はその音の中で、自分の存在が軽く雨の音を透過するのを感じた。ほんの一瞬、世界のどこかに溶けていくような感覚、自由を喪失するに近い何かを味わった。
傘の先で水滴が弾かれる音を聞きながら、私は足を止める。彼女も同じように静止しているようで、二人の傘の間に見える景色が歪んで光を反射している。誰かが言ったことのない言葉や、まだ形にならない気持ちが、微かに呼吸のように交錯している。言葉にできないまま、ただ隣にいるだけで互いの存在を感じる瞬間、それが小さな胸を満たす。
雨の滴が、通りの石畳に跳ね返る。私は傘の縁に触れ、手が少し濡れるのを感じる。小さな濡れた感触が、目の前の世界の生々しさを思い出させる。雨の匂い、舗道の冷たさ、周囲の人々の傘の色の混ざり合い。それぞれが別々の物語を持っているのに、私たちの傘の下だけはひとつの世界のように思えた。
「寒くない?」と小さな声で彼女が聞く。私は笑って首を振る。声が自分の内側に響き、暖かさを帯びる。雨が二人を囲む透明なカーテンのように降り注ぎ、時間がゆっくりと歪む。その傘の下での数分間が、まるで永遠のように広がる。学校の喧騒や他の友達の視線は、ここには届かない。外界の音は背景に溶け、二人だけの空間。
通りを渡るとき、傘が少しぶつかる。彼女は驚いたように目を見開き、私は慌てて手を引く。その瞬間、心臓がほんの少し早くなる。笑いをこらえると、声が自然に軽くなる。傘の下の空気は、微妙に揺れ、二人の距離もほんの少しだけ縮まったように感じられる。
雨は徐々に大粒になり、街灯の光が濡れた石畳を金色に照らす。私たちは歩きながら、傘の間にささやかな会話を交わす。内容は些細なこと、明日の授業のこと、好きな音楽、昨日見たドラマの話。でも、その一つ一つが、この雨の中で確かな重みを持つ。雨の音、傘の摩擦音、足音のリズムが、言葉を包み込み、柔らかい膜を作る。
「ここ、雨が多いね」と彼女がつぶやく。私はうなずく。雨の粒は目に見えないほど小さく、しかし存在を強く感じさせる。傘の間の空間で交わされる言葉と沈黙、視線の揺れ、それらが重なり合ってる。
歩きながら、私はふと自分の手を見下ろす。手のひらの温かさ、雨で少し湿った感触、傘の持ち手の冷たさ。それらが五感を通して私の内面に響く。自由という感覚は、大きなものではなく、こうした微細な瞬間の中に存在しているのだと気づく。傘の下の空間は、世界のすべての雑音や混乱から切り離されて、ただ私たちの呼吸や心拍だけが共鳴する場所になって。
通りの角を曲がると、雨はやや弱まり、遠くに見える校舎の窓に反射する光が揺れる。私たちは歩みを少し緩める。言葉にしなくても、傘の間の空気は理解している。誰かが笑った声はすでに遠く、世界のどこか別の場所に消えていく。でも、この傘の下で感じた晴れ間は、確かにここにある。
私は傘を畳みながら、ふと思う。日常の中の小さな瞬間、些細な出来事、そして誰かとの距離の微細な変化こそが、私たちの心を育てる。雨に濡れた石畳、傘の下のぬくもり、遠くで響く笑い声。それらはすべて、自由の感覚の片鱗であり続けるように。
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