第8話 セレロン&クレセント


 ガタン、ガコンッ!

 カシュ

 世龍乱セレロンは自販機で購入した缶コーヒーに口を付ける


 勤務中なのでビールで無いのが実に残念だ


 ベルトに付けたポーチから煙草を取り出し火を着けると、深く吸い込む

 世龍乱の爆乳では、制服の胸ポケットに煙草は入らなかった


 と言うより、ネクタイを緩めてボタンを外していないと、いつボタンが弾け飛ぶか分からなかった

 子供の頃から人並み外れて発育の良いバストのせいで、着る服にはいつも不自由してきた


 特に「制服」は駄目だ


 バストに合わせると、既製品では間に合わなくなる

 袖丈も着丈も長過ぎる上に、肩幅も合わず胴回りもダブダブだ

 ヒップに合わせてスカートもウエストを詰めている


「アタシゃデブじゃ無えんだからよ …… 」

 女性にしては180cmを超える長身だが、ウエストはキュッと締まっているグラビアモデル体型に合う支給品は無い


 一度、ボタンをテグス釣り糸で縫ってみた事があるが、敬礼の為に背筋を伸ばしたら生地が破れた


 一応、規則で制服の着こなしまで細かく規定されてるので、世龍乱の体型に合わせた特注品も打診はされたが、たった1人の都合に予算は通らなかった

 要は「制服に身体を合わせろ」と言うナチスドイツも真っ青なハラスメントである


 仕方なくバストを抑えつける矯正下着を着用してはいるが、着丈や胴回り、袖丈に合わせると、どうしても胸がキツくて大変だった

 何より息が苦しくて仕方無い


「あ〜あ、就職先間違えたなかぁ …… 」


 海外の輸入下着が安く手に入る時代になったが、肝心の仕事着に無理があった

 それこそラテン系外国人婦人警官が半数を占める様にでもならない限り、状況は改善されないだろう

 近頃は外国人警察官の採用も増えている


「あ〜、まぁたサボって煙草吸ってる!髪の毛に匂いが着くよ」

「うっせぇな、そんなん気にしてヤニ吸えっかよ」


 一緒にミニパト乗務をしている相棒の三日月クレセントに突っ込まれる


「ウチ、今夜はデートなんだからハコの中車内で煙草止めてよね?」

「はいはい … って、こないだ別れたとか言ってなかったか?」

「どうでも良いけど、自販機の前でヤンキー座りしてると、パンツ覗かれるわよ?」

「んあ?」


 無意識に股を拡げて制服姿のままヤンキー座りしていた世龍乱は慌てて立ち上がり、辺りを見回す

「だ、誰も居ねえよな?」

 ぽいっと空になったコーヒー缶を投げ捨てると、見てもいないのにちゃんとゴミかごに入った


「例のストーカー坊主、緊急手配掛かってるわよ」

「知ってる、女子高生宅に侵入した痴漢よ」

「乙女の敵ね!」

 三日月も世龍乱も殺る気満々だ


 それにしても、取り調べ室内の男性警察官2人を手際よく昏倒させ、手錠を外してまんまと警察署から脱走するなんて、少し … いや、かなり異常だ


「大体、何なの?今どき修験僧なんて居ないっしょ?聞いた事無いわよ」


 居ない訳では無いのだろうが、少なくとも坊主姿で痴漢行為などしたら「捕まえて下さい」と宣伝してる様なものだ


「取り調べにも黙秘だったんでしょ?」

「名前以外、喋らなかったそうよ」

「名前って言ったって … 桃太郎なんてふざけてるわ」


 住所職業不定の桃太郎容疑者脱走の話題は瞬く間に署内を駆け巡っていた

 幸いな事に、拳銃を奪われたりはして居なかったが、この不祥事を県警本部に連絡しなくては為らない署長は薄くなった頭を抱えていた


 本部長は責任を署長に押し付けるだろうけど、そんなの知った事っちゃ無い


「取り敢えず、あの子の学校周辺を洗うわよ」

 交通課巡査の2人に捜査権など無い


 あくまでも防犯パトロールの体で、痴漢を捕らえる積りである


 

 

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