第10話 ゲームとリアル
いつからだろう。
頭皮の感覚が感じにくくなったのは。
以前、髪の毛の調子には波があると言ったが、それには頭皮も含まれる。
髪の調子が良い時は頭皮の血行が良いのか感度も抜群。
髪を洗う時、純粋に頭皮が気持ちいいのだ。
毛穴一本一本が喜んでいるのを感じる。
だが、調子の悪い時はどうだ。
髪を洗う時、まるで自分の頭皮じゃないみたいな感覚に襲われる。
血行が悪いのだろうか、いや、単純にそうとも言えない。
いくらシャワーの温度を熱くしようが、頭皮の感覚が鈍いのだ。
頭皮に生気が感じられない。
マッサージをしても、嫌な油が手につくだけ。
調子の良い時は、頭皮の油の質も良かった。
そして髪の毛の調子の『波』だが、段々と調子の良い時が短くなっている気がする。
今は辛うじて謎トリートメントでボリュームを維持しているが。
俺の頭皮よ。
お前は俺を置いて先に旅立とうとしているのだろうか……。
「ピンポーン」
朝からセンチメンタルな気分に浸っていると呼び鈴がなった。
雪子かと思ったが、今日は学校が休みだから来ないはず。
てことは何かの勧誘か?
今日は母親とハゲ共は朝から出かけて居ないからな。
面倒だが、俺が対応するしかない。
「はーいどちらさ――」
「私が来た」
「雪子⁉ こんな朝からどうしたんだ?」
「これ買ったから、一緒に遊ぼうと思って」
そう言って雪子が見せてきたのは一本のゲームソフト。
タイトルは『ハゲ鬼・ナイトメアハザード』今話題の新作ホラーゲームだ。
フサフサの主人公がハゲた鬼から逃げつつ謎を解いていくゲームだ。
途中、ハゲた鬼に便乗して人間のハゲ共も追いかけてくる。
正直意味が分からないが、そいつらからも逃げる必要がある。
捕まってしまったらアウト。
毛の亡者達に髪の毛を引き抜かれてしまう。
全ての髪の毛を失ってしまったらゲームオーバー。
悪夢のようなゲームだな。
「楽しみ」
「ああ、そうだな」
ちなみに雪子はゲームが下手くそだ。
こうしてゲームを持って来る時は基本俺がプレイさせられる。
雪子は横で眺めて、たまに口を出すだけ。
そんなんで面白いのか気になるが、どうやら本人は楽しいらしい。
雪子が楽しいなら俺に不満はない。
休日もこうして一緒に過ごせるのは幸せだからな。
「あ、そこ回復アイテムの育毛剤がある」
「おっ本当だ」
「ハーブを頭に塗ると少し頭皮を回復出来るみたい」
「おお、豆知識だな」
「あ、ストレスの数値が高くなってる、下げないと脱毛現象が始まっちゃう」
「やっべ、近くのヘッドスパに寄らないと」
「ハゲ鬼と接触したから『スイッチ』が入っちゃった。脱毛が止まらなくなるって」
「やべえな、次のチェックポイントまで急がないと」
このゲーム作ったやつさあ。
表現がリアル過ぎるわ。
ゲームクリアした頃にはめっちゃハゲに詳しくなってるよこれ。
ハゲは恐怖だけど、ホラーゲームに合わせるのはどうかと思うよ。
何かちょっと面白くなっちゃってるもん。
主人公がハゲダメージで髪の毛が薄くなってきた時に、雪子も笑ってたし。
いや、俺からしたら恐怖でしかないんだけどさ。
まあでも、雪子が楽しそうにしてるから良いか。
「お、どうやらクリアしたみたいだな」
「本当だ、ワタル凄い」
夕方くらいまでぶっ続けでプレイして無事エンディングを迎えた。
ボリュームは少ないように見えるが、マルチエンディングみたいだ。
途中の行動や選択肢でエンディングが変わるみたいな奴だな。
「面白かったな」
「うん、面白かった」
「じゃあ、帰るか? 送ってくよ」
「あ、ちょっと待って最後にプロデューサーのメッセージがあるみたい」
「おっ、良い演出じゃん」
エンディングが終わると『プレイしてくれた君へ』という表示が現れた。
雪子と二人でワクワクしながら、続きを見る。
『恐怖には色んな形がある、その一つがハゲだ。このゲームを遊んでハゲの恐怖を感じてくれたと思う。それは今、僕の身に起こっている事であり、遊んでくれた君の将来でもある。君が『ハゲの恐怖』に襲われた時、今日遊んだゲームの事を思い出して欲しい、君は確かに『ハゲ』と戦っていたんだ。勇気を持って『ハゲ』に打ち勝った今日という体験をど――――』
「さ、帰るか」
「うん」
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