灰に祈るもの

プリンぬ

プロローグ「奈落の子ら」


――ギィィィッッッ!


獣の咆哮が、空気を裂いた。

枯れ木が爆ぜ、地面がうねる。


斜陽が差し込まぬ谷底で、異形の影が蠢いている。


「チッ……鳴き声がうるせぇ」


茶色の髪を乱し、薄緑の瞳を揺らす少年が、苛立ちを込めてつぶやく。


睨む先には、白濁した瞳をギラつかせる魔物の巨躯。


甲殻に覆われた異形の四肢が地をえぐり、砂埃が舞い上がる。


「ゼフィル、左に回れェ! 俺が囮になる!」


「待てバカ、それ突っ込むだけで戦術って言わねぇからな!」


いつものごとく、正面突破しか考えていない相棒のために援護の魔法を展開する。


茶髪の少年の手元に集まる淡い光。


その手から放たれた蒼い雷が魔物の脚を打ち抜き、焦げた肉の匂いが広がった。


ギィエェェェッッ!?


咆哮。

吹き飛ぶ黒い体液。


だが、それでも“それ”は止まらない。

むしろ、再生している。まるで魔晶石そのものだ。


「ふははっァ!」


唇の端を楽しげに吊り上げるのは、灰色の髪と薄藍色の瞳を持つ少年。


灰色の髪が踊り、少年が跳ぶ。

その身体は風より速く、拳は獣の額を撃ち抜いた。


肉が潰れ、骨が軋み、黒い体液が地に散る。

だが、それでも“それ”は立ち上がる。


血を流しながらも、傷を塞ぎ、牙を剥いた。



魔晶の濃度が異常に高い、灰色の谷。

この場所では常識も、理も通じない。


“それ”はもはや生き物と呼ぶにはあまりにも凶暴だった。

ただ、燃え尽きるまで暴れ続ける、塊。


「たのしいなァ!ゼフィル!」


灰色の少年が、宝石のように目を輝かせて茶髪の少年に笑いかける。


「…お前と一緒にするな」


茶髪の少年はぶっきらぼうに答える。


魔物が再び身構える。

こちらを“敵”として認識している証拠だ。


「終わらせるか!ゼフィル!」


「…それ、さっきも言ってたぞ…」


灰色の少年が地を蹴る。

蒼い雷が空を裂き茶色の髪がなびく。



狂気が沈んだ谷の底で、背中を預け、息を合わせる。


ふたりは並んで戦っていた。

ずっと、そうだった。


灰色の谷に響く、爆音。

砕けた甲殻と、飛び散る肉塊。



だが、彼らは知らなかった。

この地に眠るものが、大地を、世界そのものを揺るがすほどの“歪み”であることを。


「こいつはどんな味がするかなァ?」


そう言って、灰色の少年――ネベルはわらった。



________________________________________

プロローグを読んでいただきありがとうございます!!

感想を貰えるとプリンぬは飛び跳ねて喜びます!!


また、最新話はnoteで読めるので、気になったら覗いてみて下さい!!





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る