3-2

 テントを片付け、出発の準備を整えたところで、ユーリイがバッグからなにかを取り出して渡してきた。


「これ、使ってください」

「防毒マスク……か?」

「はい。僕は耐毒訓練もしてますから」

「わかった。ありがたく使わせてもらう」


 被ると視界の邪魔になるし、かなり暑い。

 だが、コカトリスの危険性を理解しているランスは、外したりはしなかった。


「浅層に出てきたばかりとなれば、トリックスグラスの分布を調べても意味なさそうだよな」

「ですね。いっそ、派手に植物が枯れてる地帯でも見つかれば楽なんですが……」


 流石に一級冒険者のユーリイは、上位種の魔物を狩るコツを知っている。

 知識のみで、経験は遠い昔のもののみの自分とは、勘もなにも違うだろう。

 とすれば、余計なことは言わずにユーリイの指示に従うべきだ。


 様子をみながら進むユーリイのあとを、ランスも気配を殺して進む。

 しばらく進んだところで、ユーリイが振り返らずに手で合図を送ってきた。


──止まって、そのまま動くな。


 立ち止まったランスは、そこで身をかがめる。

 ユーリイは、素晴らしい身のこなしで傍の木にするするっと登った。

 前のユーリイがいなくなったことで開けた視界に、毒に枯れた木の枝が見える。


──この先に、いるのか……。


 ユーリイが、飛翔するように枝を蹴ったかと思うと、コカトリスの甲高い鳴き声が響いた。

 戦闘が始まったところで立ち上がり、ランスは木立の隙間から様子をうかがった。


 ユーリイの剣は、数々の装備品と同じく魔物素材の高級品だ。

 剣身に魔力を巡らせることで、その属性に応じた効果をもたせることが出来る。

 今は雷撃をまとわせているのが、遠目でも輝きから察せられた。

 ショックで相手の動きを止めたり、鈍らせる効果を期待しての選択だろう。


 牽制をしながらユーリイが魔法を放つ。

 轟音とともに、閃光が走り、コカトリスの頭上に落雷した。


──流石、一級。魔法も豪快だな……。


 コカトリスが動きが止まったことを確認してから、ランスはそちらに歩みだす。


「お見事」

「いえ、少し手間取りました」


 ユーリイがコカトリスに背を向けた時、絶命したと思っていたコカトリスが揺らめいた。


「ユリィ!」


 ランスの叫びにユーリイが振り返るが、それより早くコカトリスが甲高い雄叫びを上げる。

 咄嗟に、ランスは全力でユーリイの体を突き飛ばした。


 視界を、紫色をした毒の霧に包まれる。

 マスクをしていても、皮膚に毒が触れて、ランスはたちまち身動きができなくなった。


「ランスッ!」


 ポイズンブレスから逃れたユーリイは、即座に動いてコカトリスの首を切り落とした。


「ランスッ! ランスッ!」


 駆け寄ってきたユーリイが、ランスの体を抱いて揺する。

 顔からマスクが取れて、地面に落ちた。


「莫迦……やろ……、揺すったら、毒が余計に回る……」

「あ……、すみません……」

「心配……すんな。マスクもしてたし……、俺は……昔、コカトリスの毒で死にかけたことがあるから……、少しばかりだが……、耐性があるんだ」

「そ……そうなんですか?」

「こ……コカトリスは……、バッグに……。解体は……あとでしてや……るから……」


 ランスの体から力が抜けて、カクンと意識を失う。


「こんな時まで、仕事の話して……」


 ユーリイは、震える手でランスの体をぎゅうっと抱きしめた。

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