過去のやらかしと野営飯

琉斗六

1-1

 夕暮れ時、ランスはギルドにクエスト達成の報告に、寄った。


「ランスさん、ありがとうございました!」

「ああ、これから頑張って活躍しろよ」


 15歳になったばかりの少年と少女が、ランスに向かって深々と頭を下げる。

 ランスは手を振り、彼らの背を見送った。


「ランスロットさん、ご苦労様でした」


 王都の冒険者ギルドの受付嬢は、ランスの差し出したタグを受け取り、クエスト達成の認定をすると、報酬を支払ってくれる。


「また、次があったらよろしくな」

「ええ、ランスロットさんの指導は評価が高いので、次もすぐにお願いできると思います」


 決して多くもないが、しかし生活をするのに困らない程度の報酬を受け取り、ランスは受付を離れた。


 ランスことランスロットは、よわい四十を迎えた男である。

 若いころはストロベリーブロンドだった髪に、いまは白いものが混じりはじめた。

 体も動くが、無理が利かないことを思い知らされる。

 とはいえ、今のランスは最前線の冒険者ではない。

 一応ギルドに登録はしているが、ダンジョンを攻略したり、村を荒らす魔物を撃退したりといった、荒事とは無関係だ。


 ブルーグレイの瞳に人好きのする笑顔。

 新しく冒険者への道を踏み出したものたちに、初心者の心得を指導するのがもっぱらの仕事である。

 たまにダンジョン攻略組のサポートをすることもあるが、その依頼件数もめっきり減った。

 今や冒険者ギルドでは "新人しんじん指導を任せるならランスロット" と言われる程度に信頼もある。


──収入もあったことだし、今夜はちょっと晩酌するか。

──と決まれば、どこで夕食にするか?  "踊る兎亭" のうさぎのシチューとミードにするか、 "山羊の蹄亭" の串焼きとエールにするか……?


 そんなことを考えながら、冒険者ギルドから出ていこうとした時。

 ランスが出入り口にたどり着く数歩すうほ手前で、扉が開き、背の高い男が一人、建物の中に入ってきた。


 手足が長く、黒髪に空を切り取ったような青い瞳をした若者だ。

 身につけている装備品の数々はどれも希少な魔物素材で作られた、一流の冒険者の持つ品ばかり。

 彼が歩みを進めると共に、ざわめきのような囁き声が、場にいた冒険者たちの間に流れた。

 驚きと畏れ、羨望と嫉妬──視線と噂が屋内を満たす。

 認めざるを得ない凄腕への尊敬と、どうしても拭えぬ妬みが、濃く滲んでいた。


「ランスロットさん! お久しぶりです」


 その、皆の注目を一身に集めていた若者が、自分に話しかけてくる。

 意味がわからず、ランスは数秒、相手の顔を見つめていたが。


「あ、ユーリイか?」

「はい! ご無沙汰してます」


 ニコッと笑ったその顔は、あの頃と変わらない無邪気さを宿していた。

 次の瞬間、ユーリイはためらいもなくランスの手を取り、がっちりと握りしめる。

 ただの挨拶にしては、熱がこもりすぎている握手だった。

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