午前零時の訪問者(1分で読める創作小説2025)

烏刻

無人駅にて

終電が行ってしまった後の無人駅は、まるで世界の終わりみたいに静かだった。


旅先で疲れているはずなのに、なんとなく眠れなくて。

ふらりとホテルを抜け出し、深夜の散歩の果てにたどり着いたのが、この場所だった。


ぴん、と張り詰めた空気。蛍光灯の白い光が、湿ったホームをぼんやりと照らしている。

時刻は、ちょうど午前零時を指していた。


「……エモい、かも」


誰に言うでもなく呟き、スマホを取り出す。

吸い込まれそうな暗闇の向こうへと続く線路をフレームに収め、一枚、シャッターを切った。

我ながら雰囲気のある写真が撮れた気がして、満足する。そのままSNSに「深夜の無人駅にて」とだけ添えてアップロードし、俺は冷えてきた身体をさすりながらホテルに戻った。


異変に気づいたのは、翌朝のことだ。


『おい、誰と行ってんだよ!誰が撮ったんだ?』


友人からのメッセージで目が覚めた。

寝ぼけ眼で意味を理解しようとするが、頭が追いつかない。今一人旅中だ。

言われるがまま、昨夜自分が投稿した写真を開く。


静まり返った、無人のホーム。

……いや。


指でぐっと、画面を拡大する。

ホームのいちばん端。自販機の赤い光が漏れている、その場所に。


――誰か、いる。


ぞわり、と全身の肌が粟立った。

それは、昨夜俺が着ていたのと同じ、くたびれたグレーのパーカーを着ていた。俯いていて顔は見えないが、その髪型、その背格好は、どう見ても。


俺、だった。


馬鹿な。あの時間、写真を撮った後、すぐに部屋に戻ってベッドに倒れ込んだはずだ。駅に長居なんてしていない。そもそも、俺はカメラを構えていたのだから、写真に写るはずがない。

慌てて写真の詳細データを確認する。撮影日時、位置情報、すべてが昨夜のものと一致している。誰かが加工した形跡も、どこにもない。


じゃあ、これは……?


その夜、俺は自室のベッドの上で、恐怖と混乱に苛まれていた。

電気をつけたまま、布団を頭まで被る。眠れるはずもなかった。

枕元に置いたスマホが、不意に、ふっと画面を光らせた。


通知じゃない。

まるで、誰かがロックを解除したかのように。


恐る恐る手を伸ばし、スマホを手に取る。

勝手に開かれていたのは、アルバムアプリだった。そして、一番上には、見覚えのない写真が追加されている。


――それは、今まさに、俺が布団を被ってベッドに蹲っている姿だった。

部屋の天井の隅、そこから見下ろすような、ありえない角度で。


息が、止まる。

写真の隅、ベッドのすぐ脇に、黒い人影が写り込んでいる。

それはゆっくりとこちらを覗き込むように屈んでいて……その顔は、紛れもなく。


もうひとりの、俺だった。


心臓が喉から飛び出しそうになった、その瞬間。


ピロン。


間抜けな通知音が、静まり返った部屋に響いた。

SNSの、自動投稿の通知。


震える指で、それをタップする。

画面に表示されたのは、恐怖に歪んだ顔でスマホを覗き込む、今この瞬間の俺の姿。


そして。

その背後から俺の肩にそっと手を置き、カメラに向かって、にたりと口角を吊り上げている"それ"が、はっきりと写っていた。


写真には、一言だけ、こう添えられていた。





やっと、みつけた……

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午前零時の訪問者(1分で読める創作小説2025) 烏刻 @ukoku_n

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