詩集 紙魚の夢

キートン

『ちがう、そうじゃない』

光が 窓を叩くたび 私は首を振る 「ちがう、そうじゃない」 影の形が ゆがんで見えるから


人が 愛と呼ぶもの 温もりを 抱きしめるたび 「ちがう、そうじゃない」 心の奥が ひび割れる音がする


地図に描かれた道を なぞる指先が震える 「ちがう、そうじゃない」 目的地は いつも別の場所


言葉の殻を 割ってみれば 中から空っぽが こぼれ落ちる 「ちがう、そうじゃない」 本当の声は 沈黙の底


そう すべての肯定を 否定することから 始まる 「ちがう」の連続が ほんの少し 私を自由にする


風が運ぶ 見知らぬ歌 いつかは 「そう」と頷ける日まで 今日も 窓辺で 「ちがう、そうじゃない」と 呟く

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