La+2
@ESNOSE
第1話 はじまり
違和感に足を止めた。
朝の湿った空気、陰気な色の舗道、いつもなら気にも留めない路地裏に奇妙な雰囲気が漂っていた。
俺の視線の先、薄暗がりの片隅に、小さな生き物が蹲っている。猫でも犬でもない、ウサギっぽいけど…見たこともない不思議な小動物。
毛並みはところどころ乱れ、体は丸く小刻みに震えている。
「なんだ、あれ…」
恐怖と不安に背中を押され、思わずその場を早足で通り過ぎてしまう。
けれど、数歩進んだあと、胸の奥に重たい罪悪感が生まれ、立ち止まり振り返った。
このまま立ち去ってしまえば、一生の後悔を抱えてしまう気がした。
再び小動物の前に戻ると、静かに膝をついてそっと手を伸ばした。
その体は信じられないほど軽く、けれど熱があった。
取りこぼしかけてる単位のことなんてすっかり頭から抜け落ちて、そのまま小動物を胸に抱き、スマホを片手に駆け抜ける。
初めて訪れる動物病院までの道のりは地図で確かめたよりも遠い場所にあるかのように感じた。
………
……
…
受付のカウンター越しに、看護師が怪訝な顔をしている。
「それで……どの子を診察ご希望ですか?」
腕に抱いた小動物をそっと見せるが、
看護師はきょとんと首を傾げるだけだ。
「……いや、ここにいるんです。ほら、ちゃんと息もしてて――」
「……あの、ご冗談はご遠慮いただきたいのですが」
まるで透明な箱を抱えているような視線を向けられる。ほかの客も、こちらをちらちらと見てくる。
(なんだこいつ…?俺にしか見えていない……?)
どこか場違いな自分に気づき、黙って頭を下げ、そそくさと出口に向かう。
「あ…ちょっと君!」
扉をくぐる瞬間、背後から呼び止められた気がしたがなんだか妙に恥ずかしさが勝ってしまい、逃げるようにそのまま病院をあとにした。
………
……
…
家までの道すがら、胸元の小動物は微かに丸まって眠っているようだった。
「ただいま…」
誰もいない自室にいつも通り声を掛ける。
「何か食べさせないと……」
棚の奥を探ると、唯一残っていたのはコンビニのスナック菓子だった。
「しまったな…途中でペットフードだか、野菜だか買ってくるべきだった」
「……これ、食べられるか?」
試しに手のひらにそっと差し出してみた。
ずっと静かな寝息を立てていた小動物だが、差し出した菓子に気が付くと、不思議そうにクンクンと様子をうかがい、
次の瞬間、もぐもぐと小さな口で食べ始めた。
「なんだ…思ったより元気そうじゃないか…」
その姿をみて、ようやく少しだけ肩の力が抜けた。
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