終末世界で少女に剣を教えていたら世界を救えるかも知れない~辺境に飛ばされた無能おじさん、実は最強騎士です~
四熊
エディンの魔獣
第1話
かつて人類は森を切り倒し、山を切り開き、自然をものともせずにこの広大なアルテリア大陸全てを支配しようとしていた。だがその栄華も過去のもの。
魔獣と呼ばれる存在のせいだ。
いつから現れたのかは分からない。
ただ確かなのは――聖都から遠ざかるほどに魔獣は強大になり、人が住める地は狭められたということ。
人々はその脅威を示すために一つの指標を設けた。
——
数字が大きいほど、魔獣の力は強大で危険。
深度一なら農夫でも追い払える。だが深度十を超えれば、一個騎士団を犠牲にしてようやく討伐できると言われる。
そして深度という言葉通りに魔獣が長く生きるほどに魔獣深度が上がってしまい、討伐が難しくなってしまう。
聖都は市街を囲む城壁に守られ、騎士たちが集い、人々が安全に暮らせる。だが税を払えぬ貧しい者は聖都近郊に住むことを許されず、魔獣の影に怯える辺境で生きるしかない。
しかも騎士団の多くは聖都を護るために聖都から近い地域に配置される。ゆえに辺境に騎士が派遣されることはなく、運よく派遣されたとしても騎士になって間もなく、騎士学校時代の順位も低い力不足の若者だ。
——ここは終末世界。誰もが明日に怯えながら生きている。
そんな魔獣の脅威にさらされる辺境の町の一つ、エディンに一人の騎士が赴任してきた。
「アルト殿は聖都から来られたとか! わしらの町をぜひお守りください!」
町長は涙を浮かべて両手を取り、町人たちは歓声をあげた。何故ならアルトは騎士学校を卒業して間もない新人ではなく、実績があるベテラン騎士だったからだ。
それに聖都から派遣される騎士など滅多にいない。それは町の人々にとって希望の光だ。
「これでもう魔獣に怯えずに暮らせる」と思わせるに十分だった。
だが――期待はすぐに裏切られた。
「アルトさん、今日の壁の補強を……」
「……悪い、腰が痛くてな。代わりにやっといてくれ」
「畑の見回り、一緒に……」
「今日は暑いからやめとくわ」
「せめて、私たちに魔獣を倒す稽古をつけてくれないか?」
「うーん、気が乗らないし。なんかあったら俺が何とかするから」
町人たちがいくら頼んでも、アルトは酒場で酒をあおり、昼間から寝転がってばかり。
やがて人々は囁き合うようになった。
「聖都の騎士だって聞いてたが……」
「ありゃ無能だ。口ばかりで何もせん」
「役立たずが来るだけとはな……。ただでさえ辺境は飯が少なくて困っているのにただ飯喰らいを抱えるとは」
希望の光は、あっという間に失望へと変わった。
その一方で、町人たちの視線を集めていたのは別の人物だった。
町長の娘、リディア。
年若い少女でありながら、幼い頃から剣を握り続け、我流ではあるが訓練を積んできた。
深度三の魔獣を一人で仕留めたこともあった。本来なら騎士二人で安全に討伐できるとされる相手を無傷で。
それは町人にとっては誇りであり、そして希望そのものだった。だが少女であったリディアにその重荷は背負わせるのはあんまりだと思い、騎士が来るのを待っていたのだが、やって来た騎士であるアルトがあのような様子ではリディアにすがりたくなるのも無理はない。
「アルトなんかより、リディア様の方がよほど頼もしいわ」
「やっぱり、あの子がいずれこの町を守ってくださるのだ」
そんな声が日ごとに大きくなる。
「……聖都の騎士が来たって聞いたから、私は心から喜んだのに」
夕暮れの訓練場で、リディアは剣を振りながら吐き捨てるように言った。
その視線の先では、木陰で寝転がるアルトが欠伸をしていた。
「けれど、あなたは……ただ酒を飲んでぐうたらしているだけの人だった。今も仕事をしてるふりをするために訓練場で隠れて寝転んで! 情けない!」
「そう怒るな。俺だってもう若くねえ。ちょっとくらいのんびりしたっていいだろ。それになんかあったら俺がなんとかするからさ」
「ちょっとくらいって! エディンみたいな辺境の町はね、今にも魔獣に飲み込まれてもおかしくないの! だからみんなで力を合わせて頑張らないといけないのに!」
リディアは剣を握る手に力を込めた。憧れた騎士像と、目の前の男の落差に、悔しさと苛立ちが抑えきれなかった。
アルトはそれを横目に、ただ空を仰ぎ見て寝転ぶだけだった。
――
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