ピンクの季節に恋をして
すた
第1話学校のアイドル
(1)学校のアイドル
僕の名前は
ついこないだ、二年生になった。
さて——今、僕は高校の校門に着いた。皆が校門の真ん中付近を見ている。
星のように、きらきら輝くような目で、
「藤野 莉羅」。
学校のアイドルと言われている人だ。
柔らかそうで、サラサラしている淡いピンク色の髪。
朝日に照らされ、ほんのり光が反射している。そして、綺麗に整えられていた。肩にかかるセミロングで、毛先は自然にカールしていた。
だれもが惹かれるような、ガラスのようにきらめく淡いピンクの瞳。
見つめられたら最後、心のどこかがふわりと浮かぶ、そんな錯覚すら覚える。
肌は白く、まるで陶器のように、どこにも曇りのない、美しさだ。
……悲しいことに、僕とは縁のない、高嶺の花のような存在だ。
教室に着き、荷物を整理している。
クラスメイトのざわざわした声が、より一層強まった。
そう——藤野さんが入って来たのだ。
藤野さんが、来たと同時に、先生も教室に入って来た。
先生が、教壇に立ちクラスメイトに言った。
「すまん、誰か、この荷物を運んでくれないか。」と。
先生の前には、大量の紙が置いてある。
僕と藤野さんが手を挙げた。
先生が言った「おお、藤野、赤間ありがとな。この紙を、一階の書類室に運んどいてくれ。」
僕と藤野さんは「分かりました。」と良い、ずっしりと重い、紙の塊を、分け手に持ち、教室を出た。
「藤野さん、大丈夫ですか?」よく見ると、藤野さんの手が震えている。
「ぜ、全然平気ですよ。」と藤野さんは言ったが、声がぶるぶると震え、大丈夫そうには感じなかった。
「重かったら言ってください。」と藤野さんに言った。
「ええ、ありがとうございます。」と藤野さんが言った。そのとき、彼女がふとこちらに向けて見せた笑顔——それは、ただ“かわいい”なんて言葉じゃ足りなかった。
淡いピンクの瞳が少しだけ細まり、頬のあたりがふわりと緩む。
作った笑顔じゃない、これは——素の表情。
ほんの一瞬だったけど、まるで太陽の光が差し込んだように、胸の奥がぽかぽかとあたたかくなる。
やばい。
なんだこれ。
こんな笑顔、テレビや雑誌じゃ見たことない。
「かわいい」なんて、もうとっくに超えてた。
これは——反則——
こちらに、顔を向けたからだろうか。彼女が階段を踏み外した。
「きゃ!」とかわいらしい声が上がる。
「藤野さん!!」
ギリギリ、本当にギリギリで手をつかんだ。
その瞬間、彼女の体がぐらりと揺れて、僕の胸に軽くぶつかる。
少しの沈黙。
彼女がそっと顔を上げたとき——その頬が、りんごのように真っ赤に染まっていた。
いや、頬だけじゃない。耳の先までほんのり赤い。
動揺を隠すようにまばたきを繰り返して、視線が泳ぐ。
「ご、ごめんなさい……ありがとうございます……」
声も、少し震えていた。
赤くなっているのは、僕のせいだろうか。それとも、ただ驚いただけ……?
分からない。けれど——その顔が、やたらとまぶしく見えた。
散らばった紙を集め、資料室がある廊下まで来た。
突然藤野さんが「少し、ごみがありますね。少しだけ掃除しませんか?」と言った。
確かに、廊下にごみがちらほら見える。
「いいですね!掃除しますか!」と僕が言った。「じゃあ、ほうき持ってきます!」と、藤野さんは廊下の端っこにあった机を紙に乗せながらいった。
この紙、一旦資料室に置いた方がいいかな。
僕は、藤野さんが置いた紙と自分の紙を資料室の前まで持ってきた。
藤野さんが帰って来た。
(2) 突然のアクシデント
どうして、こうなった。
僕と藤野さんは、今、資料室に閉じ込められている。
あのとき——
僕が紙を抱えて資料室の前まで持ってきて、鍵は藤野さんが持っていたので、しばらく待っていた。
戻ってきた藤野さんに、「一回、紙を資料室に入れた方がいいですよね?」と言った。
「そうですね!」と藤野さんは笑顔でうなずき、
持っていたほうきを、スライドドア特有の少し凹んでいるレールの右側に、なにげなく立てかけた。
それから二人で資料室の中に入り、紙を中の机に置いて——
僕が後ろ手に扉をゆっくり閉めた。
そのときだった。
カタン……
軽い音が室内に響いた。
「えっ……?」
僕はドアに手をかけて開けようとしたが……引けない。動かない。
そのとき、ふと頭に浮かんだのは、さっき藤野さんが立てかけた——あのほうきだった。
「まさか、あのほうきがドアを閉めた反動で……!」
……詰んだ。
沈黙が数秒流れた。
「あの……すみません……」と藤野さんが言った。
思わずさっきの言葉が声に出てしまったらしい。
その直後、藤野さんは、何もないところでつまずいて転んだ。
「きゃ!」とかわいらしい声が響く。
「大丈夫ですか!?」と僕が駆け寄ると、
「はい…」と彼女は答えた。
「あの、まさか藤野さんってドジなんですか?」
そうだ、今転んだのもそうだが、階段のときもそうだった。
すると彼女はぱっと顔を赤らめて、むくれたように言った。
「え、えっ!? ち、違いますっ! ドジじゃないです!」
でも、その真っ赤な顔と視線をそらす仕草が、なぜか妙に可愛く見えた。
この人、分かりやすい。僕はそう思った。
「これ、助けを待つしかないですね。」
「そうですね…」
「藤野さん、ここで言うのもあれですが、敬語やめませんか? 僕、もっと藤野さんと仲良くなりたいです!」
思わず手をつかみながら言った。
すると藤野さんは耳まで真っ赤になりながら、
「わ、わかり、ま、した……! た、ため口で……い、いくね……!」
「しゅ、俊君…!!」
「俊君?」
「あ、いや、やっぱため口にするんだったら、呼び方も変えるべきかなって……」
「なるほどね。じゃあ、よろしくね、莉羅。」
「う、うん!!」
突然ドアが開いた。
「おーい。大丈夫か?」先生だった。
先生が遅いから見に来てくれたらしい。
後片づけをし、教室に戻るのだった。
(3) 知らなかった事実
授業が始まった。僕は、ずっと莉羅のことで頭がいっぱいで、授業に集中できなかった。
いつの間にか放課後になっていた。
早く帰らないと!!
いつもの帰り道を辿っていたら、莉羅がいた。
莉羅の家、こっちだったんだ。
「り、莉羅!!」
声に気づいたのか、莉羅がこちらを向く。
「あ、俊君!」
「家、こっちの方向だったんだね!」
「うん! 俊君、私の家知らなかったの?」
「え?」
「え、俊君、家隣でしょ?」
「そ、そうなの!?」
「あ、知らなかったんだ!」
話していたら、あっという間に家に着いた。
「今日はいろいろありがとう!」
「うん!」
お互い自分の家に入るとき、莉羅がつまずいた。
「だ、大丈夫?」と僕が声をかけると、
「だ、大丈夫…」
と莉羅は顔をりんごのように赤くしながら家に入っていった。
家に帰り、自分の部屋で一息つく。
まさか、莉羅の家が隣だったなんて知らなかったな。
今日の朝は高嶺の花だと思っていた莉羅と、ここまで仲良くなれるなんて。
「これから、莉羅といろんな思い出を作っていけたらいいな。」と、僕は心の中でつぶやいた。
学校のアイドルだということを忘れそうになるくらい自然体の莉羅と——これからも一緒にいたいと、そう思った。
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