本作は主人公の「私」が大好きな拓斗に振られてしまうお話です。ただそれだけのお話が、どうしてこうも胸をつくのでしょうか。凄まじい描写力の証左と言わざるを得ません。
個人的に「上手い作家」の一つの指針として「何の変哲もないワンシーンで読者の心を揺さぶれる人」が挙げられると思っています。設定モリモリとか大どんでん返しとかも勿論良いけど、真の実力は「ささやかな日常を拾い上げられるかどうか」に現れるのではないかなと。
僕は書き手としてそういう感性が全くと言っていいほど無く、これをできる人は本当に凄いと思っています。
失恋の話なので「ささやかな日常」というわけではないかもしれませんが――設定の奇抜さや爆発力で勝負するのではなく、学生のリアルな心情描写で勝負しているのが潔いです。細やかな心の持ちようを地の文で丁寧に拾い上げているのが好印象でした。
随所に散りばめられる比喩表現も非常に巧みで、詩的な雰囲気を醸し出しています。それでいてリーダビリティーは高く維持されています。
令和の高校生だからこそ書けるリアルな感情と高い文章力とが合わさって、ズンと胸に迫る見事な作品に仕上がっています。
ほろ苦いアオハルを思い出したい方は是非読んでみてください。