最強の【狂戦士】、仲間に手柄を奪われたので魔王の娘を養子にして村作りを始める~気がつくと村は一大国家となり、英雄となった【勇者】とは敵対することになりまして~

大田 明

第1話 狂戦士の決戦

 決戦の地、魔王城。

 モンスターを率いる魔族。

 人間の敵で、恨むべき魔族。

 そして魔族を束ねる王がここにいる。


 四方を囲む漆黒の壁。

 後方には数千を超えるモンスター。 

 前方からは強大な魔力を放つ気配。

 足元にも大量のモンスターの死骸があり、仲間たちは息を切らせてながら、しかし前へ前へと進んで行く。


「エギル、俺を置いて行け!」

「クレス……何を言ってるんだ! お前を置いて行けるわけないだろ!」


 金色の髪を後ろで束ねる端正な顔立ちの青年。

 黄金の鎧を身に纏い、『聖剣』に選ばれし【勇者】エギル。

 俺の幼馴染で、ずっと一緒に行動してきた仲間だ。。

 モンスターの引っかき傷で、頬から血を流がしている彼は、青い表情でこちらを見ている。


 他にも二人仲間がいるが、その二人も同じように俺を心配そうな視線を向けていた。


「クレス!」

「ダメよクレス! あなた一人を置いて行くなんて……」

「でもこのままじゃ全滅だ。ここは俺が引き受ける。エギラたちは魔王を倒してくれ!」

「ク、クレス……お前だけを置いてなんていけない。頼むから一緒に――」


 巨大な両手大剣『ブラッディクレイモア』をモンスターたちに向かって構える。

 後方ではまだエギルたちが迷っている気配を感じ、一喝するように叫ぶ。


「行け! 俺が正気、、を保っている間に!」

「あ、ああ。分かった……」


 そこでようやく納得したのか、エギルたちが奥に向かって走り出す。

 走る音を聞き、俺は微笑を浮かべてモンスターをギロリと睨みつけた。


「行くぞ。どちらかが死に、どちらかが生き残るのが戦い。悪く思うなよ」


 そこからのモンスターとの戦いは、まさに激戦であった。

 常人では勝てないであろう化け物揃いのモンスター。

 だが俺も弱くはない。

 クレイモアを使いながらも、水流の如く相手の隙間を移動する。

 すれ違いざまに剣を振り、確実にモンスターの頭部を落としていく。


 大剣使いでありながらも、この速度こそが俺の自慢。

 強さよりも速さの方に自身を持っている。


 激闘はどれだけ続いたのか、ただひたすらに剣を振るった。

 こちらの体力は残り僅かになるが、しかし相手の頭数も残り僅かだ。

 どちらが死にゆく運命になるか、それが分かるのもあと少しだろう。


 モンスターは残り3匹まで減っていた。

 俺は肩で息をしながら、血だらけとなった体を動かす。


「このっ!」


 頭上からは高速の一撃を食らわせる。

 モンスターは絶命し、残り2匹。

 相手は恐怖心というものが無いのか、仲間が死んでも構わずこちらに突っ込んでくる。


「まさかこの状態、、、、でここまでやれるなんて……意外とできるもんだな、俺も」


 モンスターは左右から襲って来る。

 左手から襲い来るモンスターの鋭い爪、それを身を低くして回避し、横回転をして胴体を切り裂く。

 相手の腹部から漏れる内蔵。

 そのまま地面に倒れ、残るは最後の1匹となった。


 同時に攻撃を仕掛けてきていたので距離は無いようなもの。

 大きな拳を振るってくるも、これを大剣で防ぐ。


「くっ……最後に残ってたのが、一番手ごたえがあるやつとはな」


 後ずさりする俺の体。

 相手は大猿のような見た目で、肉体は俺よりも優に大きい。

 拳の直撃を受けるとただじゃ済まないだろう。

 やれらる前にやらないと、文字通り死んでしまうな。


 モンスターは再びこちらを殴りつけようと、拳を振り上げた。

 しかし俺は雷の如く速度で大剣を振り上げる。


「っ――」


 ズトン! という重たい音。

 モンスターの右腕が地面に落ちた。


「グワォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼」


 痛みに悲鳴を上げるモンスター。

 ジタバタもがいているようだが、俺は容赦なくとどめを刺すことに。

 飛び上がり、相手の肩から大剣を突き刺す。

 大剣は心臓まで達し、モンスターは鼻から血を吹き出し白目を剥く。


 相手から離れると――モンスターは床に膝をつき、そのままぐったりと倒れてしまった。


「はぁ……はぁ……勝てた。やればできるもんだ」


 自分の勝利が信じられなく、乾いた笑い声を出す。

 だが戦いはまだ終わっていない。

 まだエギルたちが戦っているはずだ。


 疲労困憊。

 体は傷だらけ。

 戦うだけの力はもう残っていない。


 フラつく体で、後どれだけ役に立てるだろうか。

 いや、そんなこと考えるな。

 エギルの盾になるだけでもいい。

 ほんの少し、勝利のために貢献するだけでいいんだ。

 少しだけでも役に立て。


 足を引きずって奥へと進む。

 長い廊下を抜けると、そこには巨大な扉が聳えていた。

 まるで山のように大きい。

 そんなはずは無いのに、この奥にいるであろう存在のことを想像し、錯覚を覚えていた。


「行くぞ、クレス……覚悟を決めろ」


 自分にそう言い聞かせ、深呼吸をし、扉を押す。

 予想よりも力は必要無く、扉はゆっくりと口を開く。


 扉の奥は、玉座の間となっているようで――中の光景を見て俺は絶句してしまった。


「…………」


 仲間が死んでいる。

 エギルと共にいた二人が、無残な姿となって地面に落ちているではないか。

 すでに生を失い、肉塊と化した仲間たち。

 辛うじて頭を確認することができたが……エギルはどうした?


「エギル……エギル‼」


 幼馴染の名を叫ぶも、返事は無い。

 どうやらエギルも死んでしまったようだ。


 絶望と悲しみが俺の胸を駆け巡る。

 涙を流し、そして仲間たちの死骸の前に立つ存在を静かに見据えた。


「お前がやったのか……」

「これだけ脆く、弱い者がよくここまで来たものだ」

「聞いてるだろ! お前がやったのか!?」


 黒い髪に黒い瞳。

 身に纏うローブも黒く、まさに闇のような生き物。

 こいつが【魔王】で違いないだろう。


 魔族の頂点であり、世界の敵。

 人間と対局にいる生物【魔王】。


 仲間たちは弱くなかったはず。

 むしろ人間の中では強い方だった。

 それでも【魔王】には敵わなかったのか。


 それだけ特出した存在。

 【勇者】が仲間を率いて協力し合ってようやく戦うことができる【魔王】。


 古代からその存在を認識されており、幾度となく人間と【魔王】との戦いは繰り広げられてきた。

 人も成長をしているが、【魔王】も代を重ね成長をしていると耳にする。


 ようするに目の前にいるこいつは、歴代でも最強の【魔王】というわけだ。

 エギルたちがあっさりと負けるような相手。

 俺がどうこうできるのだろうか。


 そんな疑問はあるが、でも死んだ仲間たちのために逃げるわけにはいかない。


「儚き者よ。貴様も我に立ち向かうか」

「ああ……当然だ」


 仲間が殺されたことに、俺の心がかき乱される。

 ほんの少しの心の乱れが、俺の中に眠る力を解き放ち、自分を制御できなくなってしまう。


 それは俺の『天性』である【狂戦士】が原因だ。

 エギルが【勇者】であるように、目の前にいる相手が【魔王】であろうように、俺は【狂戦士】なのだ。


 自我を失い、本能のままに敵と戦うイカれた戦士。

 それが俺の持つ『天性』。

 一度解放してしまうと、自分で自分を止められなくなってしまう。

 そのことでエギルに何度迷惑をかけてたことか。

 制御しようと試みようとしたことも数えきれないほどあるが……全て失敗に終わっている。


 本当に些細なことで俺の中の【狂戦士】が目覚めてしまうので、常に心を穏やかに保ってきたつもりだったが……仲間を殺されて、落ち着いてなんていられない。

 

「行くぞ……俺は自分を止めることができない。自分の本能のままに暴れてやる」


 嬉しいことに……いや、悲しいことなのだが今は迷惑をかける仲間は一人もいない。

 だから俺は遠慮なく力を解放する。

 【狂戦士】の力を発揮し、全力を持って【魔王】と戦えるのだ。


 勝てる勝てないの問題では無い。

 これは仲間たちのための――弔いのための戦いなのだから。


 胸の奥から湧き上がる怒りの感情。

 普段はいつも押さえつけているそれを解放してやる。

 全身が熱く、黒く染まっていくのが分かった。


 さぁ、もう自分を止めることはできない。

 思う存分、大暴れしてやろう。

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