「ワンループ」〜何もなかった僕がHIPHOPに出会ってからの話〜

浅田秀斗

第1話出会いとぶん殴られた衝撃〜物語が始まる音〜

HIPHOPに出会った。その時、暗闇から光が刺す感覚がした。

今までモノクロだった世界に色がついて、初めて自分を等身大のまま表現していいんだと思えた。

あの感動は今でも覚えている。


「おい、何ぼーっとしてるんだよ。シュウト」

「ごめん、ごめん、ついつい考え事してた。」

「何のこと考えてたんだよ?」

「あ、俺がHIPHOPに出会ってからのこと思い出してた。」

「もうすぐライブの出番始まるから、気張っていけよ。お客さん、みんながお前のこと楽しみにしてるからな。」


今日は、One-Loop vol2の開催当日。

緊張で何度も吐きそうになり、手が震える。

そういえばあの時もこんな感じだったけ。


同級生でヤンキーの木村が得意気に話しかけてくる。僕が勉強を教える代わりに、木村は最近の流行りだったり、ファッションを教えてくれる。そんな利害関係が僕たちにはできている。


「お前、フリースタイルダンジョンって知ってる?」

「何それ?ゲームの話はやめてよ。俺の家ゲーム禁止だからさぁ」

「いや、違う番組のことだよ。」

「何の番組なの?」

「ラップバトルの番組だよ。4人のモンスターとラスボスを倒したら賞金100万っていう番組。」

「へー、でもいいや。俺そういうの興味ないし。」

「いいから見てみろって。来週、俺たちでも、男子トイレでラップバトルやるから、お前も来いよ。」

「うーん、まぁ考えとく。」


木村と別れて、1人見慣れた帰り道を歩く。

HIPHOPかぁ。俺には縁がなさそうな音楽だな。

イケてるわけでも、イケてないわけでもない、クラスの一軍でもなければ、三軍でもない、何の個性もないようなやつに、ラップバトルとか向いてないだろ。


家に帰ってHIPHOPって言葉で動画を探してみる。聞いてみたけど、やっぱりハマらないなぁ。やっぱり俺には縁がない音楽だな。


スクロールを辞めて、もう動画を見るのをやめようとした時、ある一つのMAD動画が流れて来た。


「俺にはコレがあるから。コレがあるから。」

「美化されまくったヤンキー漫画じゃ描かれなかった迷惑かけられた側。」

「例えばアイツならギター、アイツなら歌、アイツならTwitter、アイツなら映画、アイツなら漫画、アイツなら自殺、アイツは通り魔。」


脳天をぶち抜かれるぐらい、ぶん殴られたような衝撃が身体中に走った。これ人生変わるかも。「Creepy nutsトレンチコートマフィア(MAD 桐島、部活やめるってよ。)」、この動画、俺のこと歌っている曲じゃん。


自分には誇れる武器が何もなくて。

でも、何か現状を変えたくて。

なんかそんな暗い日常に光が刺した気がした。


R指定とDJ松永という2人がやっているグループ、Creepy nuts。

「たりないふたり」を代表として、自分の弱さや足りなさを武器に変え、HIPHOPで表現するグループだ。


一気にこの世界にハマって、曲を次々と再生していく。奇天烈なビートと痛快な歌詞からは、何かが始まる音がしていた。

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