第9話 見下ろすは『銀画』
※テンポよく行きたいので、2話投稿します。
次話、けっこう熱いです。
―――バタンッ!
妖精たちから間一髪のところで逃げ切った。
扉を開けて追ってくる様子はない。
ひとまず危機は去った。
現状、周囲にモンスターはいないし、安全そうだ。
しかし、
「ここは、これまでの階層とは雰囲気が違うな」
足を踏み入れたその場所は『宇宙の中』だった。
サッカーボールほどの大きさの星が、十や二十ほど宙に浮かんでゆっくりと自転している。
ひとつひとつが宝石みたいに光り、遠くには星雲のような
足元に広がっているのは、夜明け前の青空だ。
うっすらと白み始めた青色が、地平線の彼方まで続いている。
そのあちこちに雲が漂い、自分が雲を越えて、はるか上空に立っているような感覚を覚えた。
ここは明らかに、6・7階層とは違う。
慎重になるべきだ。
幸い、モンスターの姿は見えないので、スマホを取り出して情報を確認する余裕がある。
まずは、『
==========
〜現在地〜
『
第8階層(ミッドボスエリア)
==========
「ミッドボス……中ボスってことか」
この階層にはダンジョンの中ボスがいるらしい。
改めて、周囲を警戒する。
しかし、モンスターは見当たらない。
おそらく、何か特定の行動を起こすと戦闘が始まる仕組みになっているのだろう。
逆に言えば、何もしなければ始まらない。
前を横切ったり、話しかけないと戦闘にならないポケモ○トレーナーみたいに。
そう判断し、もう少し情報を確認することにした。
==========
佐藤太一(20・男)(レベル:1)
体力: 17/18(+1)
強度: 9(+1)
速度: 12(+2)
魔力: 11/11(+0)
闘気: 9/13(+4)
〜
・
……בְ△너●qΣ×д怨T𒅴。
〜
・ミニ・フレイム(
……半径1メートル以内の任意の空間に、
手のひらサイズの炎を生み出す。
消費魔力1。
・ゲイル・サイズ(
……
有効射程は50メートル。
消費魔力3。
〜
==========
『
わずかだが能力値が上昇していた。
特に闘気の能力値上昇がでかい。
闘気に関する説明がないので詳しいことは分からないが、きっと、体の動きが良かったのは闘気を消費していたからで、消費した分、能力値の上昇幅が大きかったのだろう。
魔力だけ変化がなかったが、これはおそらく闘気と逆の理由だ。
先ほどの戦闘で魔法を使っていないせいだろう。
ミニ・フレイムを使っている余裕なんてなかった。
あれは焚き火or止血用のなんちって攻撃スキルだ。
戦闘では一切使えない。
神様、いいスキルをありがとう。
魔力値は上昇しなかったものの、
代わりに新しいスキルを習得していた。
『ゲイル・サイズ』
緑の妖精が使っていたスキルだ。
風の斬撃を飛ばす技で、かなりの殺傷力を有する。
妖精の放った斬撃は、岩を大きく抉っていた。
消費魔力が大きいことはネックだが、ミニ・フレイムよりは使えるだろう。
とりあえず、『今いる場所』と『自身の状態』について把握できた。
ここからは、周囲の探索およびミッドボスなるものの討伐を目標に行動する。
ちなみに、妖精たちから手に入れたアイテムはどれも素材用で、すぐに使えるものではなかった。
おそらく、戦闘で使えるような武器や防具は、素材をチマチマ集めて製作してもらうか、ボスクラスのモンスターを倒さなければ手に入らないのだろう。
ちょっとガッカリしつつ、『
「よし、探索開始だ」
まず、宙に浮く謎の球体を観察する。
木星っぽい縞模様の球体もあれば、
海王星のようなマリンブルーの球体もあるし、
オリオン大星雲みたいな煙と米粒大ほどの星が散らばるガスの塊も存在した。
「1つ触ってみるか」
見てるだけではこの球体が何なのか分からないので、試しに1つ触ってみることにした。
もちろん罠の可能性もあるが、その時はその時だ。
1番安全そうな(?)、海王星にそっと触れる。
「……特に何も起きないな」
周囲を警戒するが、特に変化はない。
これらの球体は、ただの装飾らしい。
「触り心地としては、乾ききった油絵が近いかな?
ツルツルしてると思ったけど、摩擦は高め。
やっぱり、これも絵なのか?
……てか、ぜんぜん動かないな」
ちょっと手に取ってみようとしたが、宙に張り付いたまま微動だにしない。
何なら、全体重を乗っけても大丈夫そうだ。
「中ボスと戦う時に邪魔になりそうだな。
……もし燃えるなら、今のうちに燃やしておくか?
いや、他人の創作物を勝手に壊すのはダメだな」
一瞬、ミニ・フレイムで片付けようかと思ったが、さすがに躊躇する。
モンスターの描いた作品といえど、これほど精巧な星のレプリカは未来に残すべきだ。
俺は世界遺産に落書きするようなDQNとは違う。
宙に浮く球体が安全であることは分かった。
このまま探索を続行する。
とは言うものの、宙に浮く球体以外、特に気になるものはないので、ブラブラと歩き続けるしかない。
宝箱とかあればテンションがブチ上がるのだが。
「中ボスもぜんぜん出てこないし、何なんだこの空間は……ん?」
5分くらい歩いたところで、遠くの方に巨大な卵型の物体を見つけた。
宙に浮く球体がサッカーボールくらいのサイズなのに対し、その卵は直径5メートルほどある。
見た目は、まんま『銀河』だ。
中心が白く光り輝き、その輝きを中心に、無数の星くずのような粒子がゆっくりと渦を巻いている。
まるで、中心に存在する何者かに、エネルギーが集まっていくような、そんな外観をしていた。
「うん、絶対、アレが中ボスだろ」
おそらく、一定距離まで近づくか触れたりすると卵が孵り、中からババンと強そうなモンスターが登場するのだろう。
前の階層にいた妖精たちみたいに突然襲ってこないのはありがたいが、次の階層へ進むためには必ず戦う必要があるはず。
「あ、僕に構わず先に進んでいいですよ」
なんて言うボスはいないだろう。
その考えが正しいか確かめるために、卵を一旦無視して、次の階層への扉を探す。
けれど、それらしいものは見当たらなかった。
「たぶん、中ボスを倒さないと次の階層への扉が出現しない仕組みになっているんだろうな。
ふぅ、よしっ、やるか」
このまま何もしないのは時間の無駄だ。
覚悟を決めて、卵の方へ足を進める。
卵まで20メートルのところまで来た。
卵に変化はない。
ここなら、『有効射程内』のはず。
「どうせ戦うなら、先制攻撃するべきだよな」
俺は手のひらを卵に向け、
『ゲイル・サイズ!』
習得したばかりのスキルを発動した。
魔力が消費された感覚のあとに、
大きな
―――ピシッ!
風の斬撃が命中し、卵の殻に大きなヒビが入る。
その結果、卵の中身が少し露わになった。
卵の中の本体は、ミラーボールのようにキラキラと輝いている。
これで本体に直接攻撃をぶち当てられる。
そう思い、さらにスキルを発動しようとした瞬間、
―――ビキビキッ!
―――ピカッ!
残りの殻がすべて剥がれ落ち、卵が閃光を放った。
超新星爆発のごとき輝きが周囲を強烈に照らす。
俺は反射的に目を手で覆った。
だが、それでもスタングレネードを浴びたように意識が
そんな俺を、虫けら同然に見下ろしながら、
『アニ・レシュート・アドニー
《我は主人の最高傑作にして、》
ヴェショーメル・ハサドナー
《アトリエを守る番人なり》
ラハツーフ ・ オーネシュ
《不届き者には、天罰を下す》』
天の川のように煌めく巨大な龍が、
処刑執行を宣言した。
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