パステル画の空

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第1話 桂水亭アンティパスト



我が家は海の近くの丘の上にあった。


海に海水浴の観光客がいなくなる頃、ランチタイムに 私はとある店に足繁く通うようになっていた。


その店は、海岸通りにあった。


海岸通りには古くからの井戸があり、銘水とたたえられていた。


それはあるイタリアンレストランの敷地内にあり、毎朝店主が水を汲みパスタを手作りしていた。


店の名前は、『桂水亭けいすいていアンティパスト』。


そこの水は ほのかに月桂樹の香りがすることから、そう呼ばれていた。




「この水でなきゃ、このコシは出ない」


お客さんにも人気のパスタ。

唯一無二の食感で近所の常連さんが家族で毎日のように訪れる。


店内は赤のギンガムチェックの布類で統一されていて、各テーブルには小さなガラスの小瓶に野の花が毎日活けられる。


赤のギンガムチェックのランチョンマットに赤の紙製のナプキン、銀色のカトラリーが、テーブルにはセッティングされている。


壁からはいくつかの、レトロな真鍮製のランプが薄暗い店内を照らしている。


パスタ本来のコシを楽しんでもらうために、レシピはいたってシンプルなタリアテッレのトマトソースがおすすめだ。




トマトと塩とオリーブオイルが決めて。


トマトは近所の農園の完熟のもの。


塩はイギリスのピラミッド型の結晶が美しい甘いマルドンの海塩だ。


オリーブオイルは、イタリアの小さな村の農園でジュゼッペおじさん達の家族がオリーブの実を潰して作ったものを分けてもらい空輸している。



デザートの珈琲はエスプレッソ。

フラミンゴのマークの茶色い角砂糖とミルクたっぷりでどうぞ。


珈琲の水は言わずもがな あの井戸の銘水。


苦味ののこる、手づくりティラミスといっしょにどうぞ。


私はレジでランチの代金を支払った。


お土産用にアーモンド入りの硬いビスコッティを売っている。


私は、これから少し散策して、習い事の絵画の先生のお家を訪問する。


先生と他の生徒さんに一つずつ、ビスコッティのセロファンの透明な袋を買った。


袋はみずいろのリボンでとじてある。


私は、先生のお宅を目指して海岸線の道路を海を右手に見ながら、散策する。


潮騒の音が耳に心地良い。


海風がブルーのコットンのスカートの裾を撫でる。

素足に裾が当たって心地よい。


私は海岸線を左に曲がって、避暑地の保養所の一群のある丘を目指した。


(学生の時、部活の皆と ここの保養所で

夏休みにアルバイトしたっけ…。)




きょうは、来月の先生の個展の作品を見せてもらえる。


"楽しみだなぁ~"


私の胸は高鳴り、ルンルンと足どりは軽くなった。














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