32話 不死身の王子

 御前会議。


 開始5分前に迫るその会議に備えて、それぞれの男たちが、それぞれの思惑を持ち、たたずんでいた。 



 一番手前に、第一王子エドワードの後ろに立っている男、宦官長・ユスタキウス。


 この会議で、彼は、わずかばかりに残るリアム王子の派閥を壊滅させ、第三王子アーサーを擁する宰相派を叩きのめそうと考えていた。


 そのため、彼は、リアム派閥であるエリアスを裏切らせ、多くの情報を得た。そして、宰相派であり、ロデリックの息子、財務大臣・ドラコが、収賄容疑でユスタキウス邸に押し入ったことを理由に、財務省の権限を大幅に削ろうと考えていた。


 懸念点が一つあるとするならば、今朝、ジュリアスが定例報告に来なかったことくらいだ。まぁ、代理として、エリアスが足を運んだから、問題はないだろうが……。


 ユスタキウスは、腹をポンと叩き、舌舐めずりをする。



 その様子を冷静な目で見ている男がいた。右端で腕を組み、あごにたずさえたひげをなでている男。宰相・ロデリック。


 彼らは、国王にある提案をしようと考えていた。それは、今は亡き第四王子・リアムが提案した提案。彼を愛していた孫娘・カサブランカのためにも、この策謀を成功させなくてはならない。


 この国のためにも、今日でこの男を追い落とす。


 静かに野心をたぎらせたその老人は、深い息を吐いていた。



 そして、彼らとはまったく別の思惑を持ちながら、御前会議に挑んでいる男たちがいた。軍部の長・ガレス。


 彼はカール帝国が自国・アルビオン王国に戦争を仕掛けようとしていることを確信していた。だからこそ、今すぐにでも、国家総動員で戦時体制に移行すべきだと考えている。


 しかし、宦官派と宰相派の間にある、張り詰めた空気。政争なんてしてる場合ではない。彼は軍人らしく冷徹に考えていた。


 我が国に残された時間は、短い。


 重々しい面持ちで、剣に手をかける。それは、彼が戦う覚悟を決める時のルーティーン。数々の修羅場を乗り越えてきたこの男もまた、自国を救うために、覚悟を決めるところであった。



 そして、国王アルフレッド。


 彼は、調停者として、静かに厳粛な面持ちで、玉座に座っていた。



◇◆◇◆

 ……、さまざまな思惑を肌で感じながら、俺は、王室の扉の前に一人立っていた。


 ここに参加しているやつらは、全員俺が死んだものだと思っている。ジュリアスは、エリアスから俺が「生きている」という報告を受け、即座に俺を襲撃しに行った。その結果、宦官の中で、しっかりとした情報共有が行われないままになってしまっている。だから、俺が生きているという情報は、まだユスタキウスの耳には入っていない。


 帰ってきたのが、夜でよかった。夜は、人の痕跡を限りなく消してくれる。衛兵にも見つかることなく、自室まで戻ることができた。


 宰相ロデリックや将軍ガレスをはじめとした政界の重要人物、さらには、国王アルフレッドにいたるまで、俺が生きているという事実を、まだ把握していない。


 死んだと思ったやつが、生きて帰ってくる。


 ユスタキウス率いる宦官たちが、俺を見たとき、彼らは何と言うだろうか。


 楽しみだな。


 俺は、ゆっくりと扉に手をかけた。

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