30話 夜襲①

「リアム王子を今夜、襲撃しないか?」

「どういうことだ? エリアス」


 エリアスは、冷たい面持ちでジュリアスに言った。エリアスの顔は、まるで人を信用したことがないような冷徹さを含んでいた。


「リアム王子はミハエルの襲撃により、深手を追っている。帰ってきた時も、血をひどく流していた」

「……、なるほどな」


 ジュリアスは考える。リアム王子が、王宮に戻ってきた。この事実は、ジュリアス含む宦官たちにとって不都合な事実であった。


 宦官たちにとって、リアム王子は、厄介な存在である。とはいえ、王族に仕えるはずの一宦官が王族を襲撃したなど、あってはならない事態。しかし、リアム王子は生きて帰ってきてしまったのだ。


(リアム王子が、明日の御前会議でこの話題を出せば……)


 ユスタキウスはおろか、ジュリアス含めた宦官の立場も危うくなるはずだ。エリアスの言葉には、ジュリアスに「今しかない」という思いを抱かせるには十分であった。ジュリアスは熟考のすえ、決断する。


「分かった。あいつらを出そう」


 ジュリアスは、厨房に置かれたフライパンを鳴らす。



 ゴーーーーン


 薄暗い部屋に、わずかに高い音が反響する。すると……。



 ザッ


「噂には聞いていたが、まさか実在するとはな……」


 エリアスが息をこぼす。それを見たジュリアスは、軽く笑いながら返事をした。


「あぁ、これが宦官の暗部を担う組織・黒服隊だ」


 黒服隊。


 王宮に渦巻く陰謀を処理する、宦官派のスパイ組織。情報処理を専門としているイメージが強いが、体術を含め、魔法や剣術などにも精通している、暗殺部隊でもある。宦官派の暗い噂には、いつも彼らが存在する。


 そして、この部隊を一任されている存在こそ、【影の四公】執事長・ジュリアスであった。


「ジュリアス、リアム王子はすでに、自室で寝ている。寝室に急ぐぞ」

「あぁ、早いうちにすませてしまおう」


 ジュリアスは部隊を引き連れ、駆け出した。エリアスも、その後を追いかける。王宮はすでに暗い。部屋の前に灯された赤い炎が、わずかに足下を照らす。


 怪しく照らされたエリアスは、走りながらジュリアスにぼそりと言う。


「なぁ、ジュリアス。本当に、俺がリアム王子を裏切ったと思ったか?」

「どういうことだ、エリアス?」


 エリアスは、扉を開ける。





 そこには杖を持ったリアムと、大剣をかまえたカイン。そして、憲兵隊の隊員たち。


 ジュリアスは、エリアスの方を振り返ると、叫び声を上げた。


「謀ったな、エリアスーーーー!!!!!!」

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