26話 鬼ごっこ①

 第四王子である俺とカインは、全速力で走っる。


 ユスタキウス邸から盗み出した密書。これを彼らにバレないよう、屋敷まで持ち帰らなくてはならない。ユスタキウスも、なりふりかまっていられないはずだ。帰るまでに見つかれば、間違いなく殺される。


 まだ3km近い道のりが、王宮まである。そこまでは、彼らも追ってはこれないはずだ。肺が痛い。クソ、普段の運動不足がたたったな。


「スピードを上げろ、追いつかれるぞ」


 カインはさらに速度を上げ、走る。息をきらしながら、俺も彼のあとを追いかけると……。


 ドガン


「お前らかぁぁぁぁぁぁぁ」


 よだれをたらした野獣のような男が、空から振ってきた。ひげにまみれた顔に、伸びきった爪。クソ、こいつ、見るからにヤバいぞ。宦官の刺客か。


 瞬間、信じられないスピードで、俺の隣まで来る。その化け物は、ぐわんと、爪を振る。


 スパン


 俺は、身をのけぞらせる。


 後ろに置かれてあった袋が、切断される。中から小麦粉があふれ、砂埃と白煙が立つ。むせかえるような息で、思わず立ち止まってしまう。


 嫌な予感。


 頸動脈に爪が食い込む感触。


 まずい。


 水滴飛龍ドロップ・ワイバーン


 瞬時に、水魔法で爪をはじく。赤い血飛沫しぶき砂塵さじんが舞う。俺は、勢いよく壁面に叩きつけられた。


 吹き飛ばされる俺の姿を見たカインは、その野獣のような男の注意を俺からそらすため、大剣で斬りかかる。


 ガキン


 鋭い剣筋。


 しかし、その化け物は鋼鉄のような硬さであった。刃が折れる。にやりと笑ったそいつは、カインに向かって、大きい手を伸ばした。これを食らったら……、死ぬな。


 俺は、カインをはじき飛ばすと、その爪を背でうけた。


「グッ……」


 その怪物は不気味に笑いながら、叫んだ。


「おでのづめには毒がじみごんでる。てめえはもう死んだも同然だァァァー、グフフフ、ハハハハー!!」


 あと3km。こんなところで、力尽きるわけにはいかない。俺は血を吐きながら、立ち上がる。


「終わったのは、お前だよ」

「何言っでやがる? 気でも狂っだか?」


 思えば、違和感はあった。攻撃するたびに舞う砂。刃の通らない鋼鉄の肉体。こんな特性を持つのは、魔物の中でもこいつしかいないはずだ。ならば……。


 水槍ランス


 高密度で練り上げた水の槍を、この男の身体にねじ込む。すると、その男の腹に風穴が空いた。砂のようにボロボロと崩落し始めた。


「ぐ、ぐぞぉぉぉ」

「お前はゴーレムだな」


 ゴーレム。土人形に特殊な魔法をかけ、自我を持つように設計されたロボット。製作時に厳格な制約があり、その制約を破ると、徐々に凶暴化していくことで知られている。ユスタキウスは自身に忠実なしもべとして、この男を使ったのだろう。


 俺は血を拭き出す。まずい、これ以上は走れない。カインが、俺のそばにかけよろうとした瞬間。


「だから、彼じゃダメだって言ったのに」

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