第15話 人の動きと異変
「わかったって、何が?」
「えっ、捜査してるんですよね?」
コテンと首を倒しながら尋ねる幽理に、有紗は訝しむような表情で聞き返す。今まさに、幽理が話を切り出そうとした捜査の話題になったことで、改めて方針転換を打診する。
「ここ数日、捜査してもダメだったでしょ。だから、方針を――」
「ダメ、じゃないですよ」
「えっ、そうなの?」
「はい、街を歩きながら、人の動きを観察していました。その結果、一部の人間が不審な動きをしていることを突き止めたんです」
有紗は立体駐車場を指差す。そこは最上階に屋根が付いておらず、フェンスが付いているだけだった。
幽理が注意深く観察していると、確かに車の出入りとは関係なく不審な人物が出入りしていることに気付いた。
「よし、行ってみよう」
「あ、待ってください! ダメです!」
「えっ、チャンスじゃない」
犯人を一刻も早く捕まえようと気を急く幽理に向かって、有紗はふるふると首を振った。
「今、アイツらを捕らえても死者の書は手に入らないでしょう。あれはただの下っ端、今動いてもアイツらが切り捨てられるだけですわ」
「た、確かに……」
いくら幽理が目を凝らしてみても、出入りしている人間の中で死者の書を持っているような者はいなかった。間違いなく有紗の言う通り、簡単に切り捨てられる人間を使っているのだろう。
「雰囲気からして何らかの儀式を行う準備をしているようです。儀式を行う当日には犯人も姿を現わしますわ」
「な、なるほど……」
有紗の論理的な推理に思わず絶句してしまう。普段であれば、幽理でも結論に至れるはずだが、焦りを感じているせいか短絡的な思考に陥っていたようだ。
「私の見立てでは、近く催される死者の祭典――」
「ハロウィーン!」
「そう、その日が怪しいと見ておりますわ。ですが――」
「確実ではないから、あの駐車場を中心に監視を続けるってことか」
「はい。というわけで、今日から毎日張り込みしますわよ!」
幽理は目を輝かせながら距離を詰めてくる有紗に気圧されそうになる。
「場所が特定できるなら他の人に頼んでも……」
「連絡が来て向かうまでの時間、遅くなってもいいのであれば――」
「ダメです! 張り込みましょう!」
他の人に監視を任せようとした幽理だったが、よく考えたら、発見しだい確保したい相手だった。そのためには張り込むしかないと理解した幽理は即座に掌を返して張り込みを主張する。
「幽理さんなら、そう言ってくれると思ってました。では明日からもよろしくお願いしますね」
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」
ニッコリと微笑む有紗に、幽理もぎこちないながらも微笑み返す。しかし、有紗の微笑みに、少しだけ歓喜の色が混じっていたことに幽理は気づいていなかった。
翌日以降も、二人の張り込みは昼過ぎから夜まで続けられた。警視庁所属の魔法少女とはいえ、8歳と12歳の未成年。遅い時間に張り込みを続けるには別の苦労もあった。
「あ、幽理さん。見回りが来ましたわ!」
「わかった!」
駐車場の様子をチラチラと見ながら、二人は陰になっている裏路地へと入り、見回りをやり過ごす。
「おいおい、ガキがこんなところで何やってんだよ!」
「くっ……」
裏路地から表通りの様子をうかがっていると、不意に幽理の腕が掴まれた。振り返ると、イヤらしい笑みを浮かべた男が二人立っていた。
「やめてください!」
「なんだよ、いいじゃねえか。こんな時間にいるくらいだから慣れてんだろ?」
「やめないと、酷い目に遭いますよ!」
「ぎゃははは、そんな脅しが俺に――」
幽理の腕を掴んだまま、勝ち誇ったように男は高笑いを上げる。しかし、その笑い声は途中で途絶えてしまった。
「マジカルフォーム・アクティベート!」
「ぐえっ!」
警告をしていた幽理が予想していた通り、鬼人のように怒りに顔を歪めた有紗がステッキを男の脳天に叩きつけた。
「その汚い手で幽理さんを触るなんて許せません!」
「ちくしょう、やりやがったな!」
「マジカルフォーム・アクティベート!」
有紗のステッキで意識を吹っ飛ばされた男を飛び越えて、別の男が有紗に殴りかかる。しかし男は、まばゆい光によって視界を奪われ、そのまま足をもつれさせて転倒してしまった。
幽理の手には元は太いサインペンが、異能力によって強力なLED式懐中電灯に変化したものが握られていた。
「さすがに爆弾は使えないから、これで我慢だね」
「く、くそっ。ふざけやがって!」
「ふざけているのは――どちらでしょうか?」
「ぐあっ!」
もう一人の男の視界が戻るより前に、有紗のステッキが脳天に叩きつけられる。またしても一撃で男の意識を刈り取ってしまった。
「ふふん。ざっと、こんなものですわ」
「さすが。私の異能力は使い勝手が悪いからなぁ……」
幽理の異能力であるデウスエクスマキナは無生物を機械に変える能力だが、使いこなすには機械の知識がどうしても必要になる。しかし、前世には機械の類がなかったため、知識を生かしきれないという問題があった。
「そんなことはありませんわ。私の力では異能力者を捕まえるには少し弱すぎますから……」
幽理が苦笑しながら有紗を褒めると、逆に肩を落としてため息を吐いた。有紗の異能力は防御寄りで、先ほどのような一般人であれば問題ないが異能力者相手となると力不足を感じるように見えた。
何より有紗の異能力は、状況を正しく認識して定義しないと効果を発揮できないという弱点がある。前回のサイクロン戦では、その弱点によって敗北を喫したと言っても過言ではない。
「確かに、異能力者を捕まえるという目的を考えたら難しいこともあるかもしれないけど、自分の安全を確保できるというのは大きいと思うけどね」
幽理の異能力は汎用性が高いのだが、自分の身を守るという点においては非常に脆弱なのが難点だった。
「そうかもしれませんね。でも、安心してください。幽理さんのことは命を懸けて守りますから!」
元気を取り戻した有紗は両手でガッツポーズをしながら宣言する。
そんなやり取りをしながら監視を続けたが、犯人の動きがないままハロウィーンを迎えることとなった。
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