第13話 暗躍

 サイクロンを無事逮捕した跡内は幽理たちを家に送り、魔法少女課にあるセフィラの下へやってきていた。


「とんでもないことをしてくれましたね」

「ククク、役に立っているだろうが。それに、連れてきたのはお前だぞ?」

「わかってますけど。いくら何でも『神』の名の付く異能力はやりすぎではないかと」


 セフィラに向かって跡内は悪態をつく。これまでも、幽理に与えられた『機械神』が万能すぎて強い懸念を抱いていた跡内だが、今回のサイクロンとの戦いを経て、ますます大きくなっていった。


「それだけの器だったというだけの話だ。何の問題があるというのだ?」

「いつ、我々と敵対するかわかりませんので……」

「まだ、ミラージュの一件を引きずっているのか?」

「……ッッ!」


 セフィラから出たミラージュの名前に跡内は言葉を詰まらせる。セフィラは人間の異能力を与えるだけで、異能力を与えた人間を気にしたことなど一度もなかったからだ。


「何を驚いている。我が異能力を与えたものは、我の子も同然。普段は話題に出さずとも、知らないはずがなかろう」

「ならば、なぜ手をこまねいて見ているだけなのですか!」

「――不要だからだ」


 セフィラに詰め寄る跡内に、短く一言だけ言い放つ。それだけで言いたいことが理解できてしまう自分が恨めしいと、跡内は大きくため息をついた。その様子を説明不足だと理解したセフィラが言葉を重ねる。


「我から異能力を受けたものは、精神性が善性に向かうようになっている。一時、離反することはあれど、致命的なことは起こさないし、やがて元に戻るだろう」

「わかってます! ですが……」

「気に病む必要はない。あの者は『神』の異能力を受け入れるだけの力を持っているのだ。そうそうクリフォトの手先として寝返ることはあるまい」


 セフィラの言葉に跡内は納得しきれないように表情を曇らせる。二人の関係は非常に長いものだが、いまだにセフィラの楽観的な考えを、跡内は素直に受け入れられていない。


 セフィラの考え方に従った結果、ミラージュの件も含めて問題がなかったわけではない。しかし、致命的な問題まで発展したことがなかったこともあり、跡内も唯々諾々と従ってきた。


「『神』の異能力は私たちでも持て余すのではないですか?」


 滅多に現れることのない『神』付きの異能力だが、過去に全くいなかったわけではない。海洋神や戦乱武神、天候神など、いずれも異能力者の中でも極めて強力な力を持っていた。


 跡内はセフィラを司る神の一柱の現身ではあるが、『神』の付いた異能力を間近で見るのは初めての経験だった。


「不安な気持ちもわかるが、『神』持ちが現れるのは、天秤が傾きかけている時。邪悪の力が強くなる時に与えられる逆転の切り札。リスクは高いかもしれぬが、要らぬと捨ててしまえば、待っているのは緩やかな破滅ぞ」

「わかっております。私も全力を尽くしますよ」

「期待しているぞ。存外、今回は我らが勝利を収められるやもしれん」


 これまで跡内のセフィラは対となるクリファと互角の戦いを強いられてきた。幽理によって勝利の道筋が示されたことは、彼女たちにとって非常に大きい。


「はあ……。これは久々に苦労しそうですね」


 跡内は幽理の情報をまとめた資料を見ながら、大きなため息を吐いた。


 ◇


 一方、何とか追っ手を振り切ってアジトへと戻ったミラージュは死者の書をナイトパレードに手渡した。


「こちらが依頼の品です」

「おお、これが伝説の死霊術師と言われたユーリ・アモールの書き残した呪文書の写本か……!」


 死者の書を手にしたナイトパレードは感嘆の声を上げた。もし、この場に幽理がいたら、狂ったように死者の書を奪い取ろうとしたに違いない。なぜなら、幽理の前世の名前がユーリ・アモールだからだ。


「くくく、必死で研究したナロウニア語が役に立つ日が来たようじゃな」

「ナロウニア語? 聞いたことありませんが……」

「知らなくて当然。古代ナーロッパ文明は、ほとんどの文献に記されていないのじゃからな」


 自慢げにミラージュに告げると、ナイトパレードは死者の書を解読していく。


「どれどれ……。太陽が蠍座にかかる満月の夜、聳え立つ大地に白光照らす六芒の星を描き――」


 ナイトパレードは、傍から聞いたら痛々しい呪文を読み上げていく。その痛々しさは隣で聞いているミラージュも思わず苦笑いするしかない。


「これ……本当に効果があるのか?」

「効果があるに決まっているじゃろうが! 伝説の死霊術師の残した呪文であるぞ!」


 疑いの目で見るミラージュに対し、ナイトパレードはむきになって反論をする。彼自身もわずかに疑いを抱いているものの、条件が揃っていないことを理由に目を逸らしているにすぎないからだ。


「蠍座の満月の夜――ちょうどハロウィーンの日ではないか。まさに死者の書の儀式にうってつけじゃな」

「聳え立つ大地とは山の頂上ということでしょうか?」

「確かに、そういう意味かもしれんが、そんなところで死者を操ったところで意味がないじゃろうが。街中にある高い建物でやればええ」


 ナイトパレードの適当な言い分に、さすがのミラージュも目を細めてため息を漏らした。


「そんな適当で大丈夫なんですか?」

「もちろん、そう書いてあるのじゃからな。柔軟な思考は何よりも大事じゃぞ!」


 適当に都合よく解釈することを柔軟な思考と呼んでいいのか、ミラージュは思わず首を傾げるが、目的のものを手に入れて高揚している彼は全く気付いていない。


「それじゃあ。役目は果たしたので、私はこれで……」


 50代になってもなお、都合のいい妄想に浸って現実を見ない男に呆れ果てて立ち去ろうとしたところで、彼女の背後から二人の男が入ってきた。


「まあまあ、落ち着きなよ。そんなもので、戦力が上がるのであれば安いものじゃないか」

「ナヘマー様……」


 一人は小柄で痩せたネズミのような男。もう一人は身長が2メートルは超えているであろう巨漢。その凸凹ペアこそが、彼女たちが所属する『強欲の翼』のボスである。


「し、しかし、これを手に入れるためにサイクロンは囚われの身となったのですよ」

「でも生きているし、問題ないよ。ま、ネメシスとヒュプノスは残念だったけどね」


 ミラージュはネメシスとヒュプノスの最後を知っている。それだけにサイクロンを敵の手の中に置いておくことに我慢がならない。


「大丈夫。殺されることはないよ。それより……」


 ミラージュに微笑みかけると、ナヘマーはナイトパレードに向き直って笑いかける。しかし、ミラージュには彼の目が笑っていないことに気付いていた。


「これだけ犠牲を払ったんだ。ちゃんと成果は出してくれるよね?」

「も、もちろんですじゃ。ワシの異能力に不死の軍団が加われば、敵なしですじゃ」


 ナヘマーの表情の変化には気づいていないナイトパレードだが、相応の圧力は感じているらしく、冷や汗を流しながら早口で答えた。それを聞いたナヘマーは、今度こそ本当の笑顔を浮かべる。


「ならよかった。もし、何の役にも立たないものだったら、君にも罰を与えなければいけなくなるところだったからね」

「ははは、まさかそんな。結果を見れば、ワシの異能力が不完全だったことが分かってもらえるでしょう」

「――ふぅん。じゃあ、頑張ってね」


 ナイトパレードの答えにナヘマーは嘲るように目を細める。頭をかきながら取り繕う彼に背を向け、二人は部屋から立ち去って行った。










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