第4話後半

「私たちに気にしないで行ったら、よかったのに」

 凛也は陽翔の行動を見て、心の中で嘲笑う。

 陽翔の動き方が、ド素人で面白かった。

戦いに不利な状況にさせないためには、相手に己の情報を与えないように、立ち回らなければいけない。

 陽翔の動きは、凛也に狙われていると、丸和かりだった。

あの様子だと、戦いの経験も全くない。

 凛也に狙われていると、わざと気がつかせたのは、陽翔を動揺させるためではない。

 

「なあ雪柰、碧波あおなみホテルって、ここから30分ほどだったよな」

 凛也は肩肘を曲げて、口元に人差し指を置き、親指であごを支える。考える姿勢をしながら、雪奈に訊いた。

「そうだけど」

 予約したホテルの中に行かない。一般人を巻き込まない。優しい雰囲気から見て、思った。

 その周囲に逃げ込むだろう。

 内側の視界が悪くて、夜間だと人目につきにくい場所が多い。高い塀に、樹木が遮ってきているからだ。


 凛也は、研ぎ澄まされた直感によって、脳裏に蘇る。

 陽翔がこの店内できた時に、止まっていたことだ。

『どうかされたんですか』

『あの俺って、ここにきたがあって』

『うーん、君は初めてですよ』

『今のは忘れて』

『え、はい。それでは、席にご案内します』


 もしかして、陽翔って記憶喪失なのか。

 陽翔を怯えさせたことで、凛也にとって、不利な状況を生み出してしまった。


冷静に考えろ。

 陽翔が、凛也の元に必ず来る。

 さて、動くかと扉に手をかける。

 

「お兄ちゃん、どこに行くの」

「あいつを追うんだよ。道に迷ったら、面倒だからな」

「お兄ちゃんらしくないな」


 ☆☆☆


 陽翔は凛也から逃れるために、あちらこちらに逃げ回った。

 ふと、住宅街を見上げる。

 陽翔は冷や汗をかき、不安になる。

 ここはどこだ。

 記憶喪失しているので、この辺りの地形が全くわからない。

『碧波住宅街』という看板を見つけても、意味がない。


『レオ、黙っていないで! 助言してくれよ』

 陽翔は苛つきながら、レオを呼びかける。

 だが、レオは無反応だった。

 永琉の声もしない。

 ネックレスを念じれば、ザーッ、ゴオオッと連続した。雑音と不快な音で、耳障りに感じた。

凛也がネックレスを結んだときに、偽物とすり替えられてしまった。

 陽翔の首と足に違和感があることに、チョーカーだと知る。

 両足には、ホルスターが装着そうちゃくされていた。

 右は束のナイフに、左は拳銃が入っている。

 そこから、永琉の力を感じ取った。

 ネックレスを初めてもらった時から、永琉が用意してくれていた。


『大事にしてね』

 陽翔の頭の中に、永琉の笑顔が映る。


 レオの言う通りに、警戒しすぎなければよかった。

 陽翔は不甲斐ふがいないなくて、苛つく。耳障りな音を耳を澄ませて、凛也を探す。

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