止まない雨の人魚
暮
止まない雨の人魚 前編
「おや?」
やまない雨につつまれた夜の港街で、靄ごしに街の明かりが照らす……全裸の女……。
いや、裸というか……脚が……アンデルセンだね、こりゃあ、どうも。
「おーい美人さぁん。大丈夫かぁい?」
ふざけた調子でお声がけしてみた。まあ、おれの芸風はこのへらへら笑いしかないんだが。
「あ……」
なにやら言葉にならない様子だけども、美人の人魚姫は大きな眼でこちらに答えようとしてくれた。
これはやはり、その、助けを求めているんだろうな?
「なんてお呼びすればいいかな? ……おれの家が近いから女でも着られそうな服くらいは用意できるぜ?」
「セシーリア……」
「それ、お名前? 優雅なひびきだねぇ、セシーリア。 俺はレオナルド。レオって呼んでくれよ」
おれはうさんくさい笑顔で言った。
彼女の方は自然な雰囲気でほっとした笑みを浮かべてくれた。
第一印象はまずまずだった。
セシーリアには、贅沢ではないが恥ずかしくもない服を着せてやった。
腰から下がお魚なので(器用に歩いている)、目立ちにくい長めのワンピースが良いと思った。不思議な気品を感じる。
おれは貧乏だったわけじゃない。
おれはパチモンブランドの服飾店の息子に生まれついた。労働者階級の上というところだ。
中産階級やもちろん上流階級のエレガンスはどうにも身につかないが、おれはそんな自分の性質を気に入っている。
学校で習ったところでは、このマルメという街は中世まで小さな港村だった。
それが魔法帆船の儀重革命が起こってからは、資本家達があつまり世界貿易の拠点となり、歴史の女神はこの街を大陸でいちばんの大都会に押し上げたってことだ。
経済だけじゃない。風景や風俗の魅力についても、マルメにはロマン派の物書き達がいた。
世界中の人気を博してブランド感を広めてくれたおかげで、わが街は経済でも文化でも良い格付けの都市となった、
そしてブランドイメージにうまく乗っかり服職業に手をだした我が一家は、うさんくさい商売を当てて、それなりに遊んで暮らせる身分を手に入れたんだ。
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