月とねずみと太陽

めん坊

月とねずみと太陽

 ねずみは夜の生活をたのしんでいる。


 しかし、ぼくはちがう。


 夜の生活がにがてだ。


 「今日もひとりかぁ…」とおもいながら、空をみあげた。


 すると、月がぼくをてらしてくれた。


 「君はひとりかい?」


 「あぁ、そうだよ」


 「ひとりはさみしくないかい?」


 「さみしいよ。でも、しかたないじゃないか。ひとりなんだから」


 「私はいつも空にいる。君が顔をあげさえすれば、いつでもいる」


 「あぁ、そうかい。ありがとう」


 「しかし、君の意志で顔をあげなければいけない。いいかい、君の意思で顔をあげるんだ」


 (めんどうくさいなぁ)


 「あぁ、そうかい。おきづかいありがとう」

 

 そして、夜があけた。


 ぼくは、いつもどおりひとりで歩いていた。


 すると、太陽がぼくに話しかけてきた。


 「君はひとりなの?さみしくない?」


 (また、このぱたーんかぁ…)


 「さみしくないよ。ひとりでもへいき。ていうか、昨日もおなじこと聞かれたんだけど」


 「そうかい、それはわるかった。たぶん、月もおなじことを聞いたんだろう。君にわたしたいものがあるんだ」


 太陽は、光りかがやく小さな玉をとりだした。


 「これを君にあげるよ。いいかい、これは君が君自身を見失わないための玉だよ。君がこまったときにつかってね」


 「そうかい、おきづかいありがとう」

 

 そして、夜がやってきた。


 「まぁ、ひとりでもいいかぁ」と、とろとろ歩いていた。


 とつぜん、ぼくのいる世界がドス黒くなった。


 「なんだこれは…あきらかにようすがおかしい…今までにはないことがおきている…」


 ぼくはあせり、ドス黒いクウカンから逃げようとした。


 しかし、ぼくのいる世界は深いクラヤミにつつまれた。


 「ここはどこだろう……他のねずみたちはだいじょうぶだろうか……これはヤバい………」


 ぼくは、自分自身を見失いそうになった。


 そのとき、太陽のことばをおもいだした。


 ぼくは、いそいで太陽がくれた光の玉をとりだした。


 クラヤミの世界のなか、光の玉はきらきらとかがやいた。


 そのとき、月がぼくのもとにあらわれた。


 そして、ぼくをてらしてくれた。


 「もうだいじょうぶだ。私が君をてらしているから、君はもう自分自身を見失わない。」


 「ありがとう、あやうく自分自身を見失わないそうになったよ……ぼくの意志で顔をあげてないけど、ぼくをてらしてくれるなんて、月はいがいとやさしいんだね…」


 「君は、自分の意志で光の玉をとりだした。君自身の力で私をよんだんだ。」 


 (なるほどなぁ…) 


 「ありがとう…そんなことより、ほかのねずみたちはだいじょぶ?」


 「だいじょうぶだ」


 「よかった…」


 ぼくはむねをなでおろした。


 「ていうか、ほかのねずみたちは1人でだいじょうぶ?ぼくは、ひとりで生きていたからだいじょうぶだったけど…みんなは、ずっと集団でせいかつしてるじゃん」


 「だいじょうぶだ。ひとりひとりが、君とおなじように太陽から光の玉をうけとっている。集団で生きているようにみえて、みんなも1人で生きているからだいじょうぶだ」


 「そうなんだ…」


 ぼくは、こころがかるくなった。


 そして、夜があけた。


 すると、ぼくのもっていた光の玉はきえていった。


 ひがのぼると、太陽がぼくにはなしかけてきた。


 「昨日はだいじょぶだったかい?しんぱいしたよ」


 「光の玉のおかげでたすかったよ。ありがとう。でも、玉がきえちゃった」


 「だいじょうぶだよ。僕はのぼるたびに、みんなに光の玉をあげてるからね。君にもあげるよ」


 ぼくは、太陽から光の玉をうけとった。


 「ありがとう、これで夜がきても自分自身を見失わないよ。かんしゃしてもしきれないよ」


 「いいんだ。これが僕のやくわりだからね。これで夜がきてもあんしんだね」


 そのとき、さわやかな風がぼくのもとへふいた。


 そして、風がぼくに話しかけてきた。


 「昨日はたいへんだったみたいだね、太陽から話はきいたよ。」


 「まぁ、たいへんだったよ。だけど、月と太陽のおかげでどうにかなったよ」


 「よくがんばったね。そういえば,君もひとりみたいだね。さみしくない?」


 「今はそんなにさみしくないかな。なかまがいるから」


 「そうかい、それはよかった。僕は、君にわたしたいものがあってきたんだ」


 風はごそごそとうごきはじめた。


 そして、さわやかな風の音がする玉をとりだした。


 「この玉は、君が君自身を見失わないための玉だよ。君がこまったときにつかってね」


 「ありがとう…でも、もう太陽から玉をうけとっているんだけど、もらってもいいの?」


 「玉は、1つでも多いほうが心強いかなとおもって……」


 「たしかに、そうだね。おきづかい、ありがとう」


 そして、夜がやってきた。


 ぼくは光と音の玉をくわえながら、夜のまちをさわやかにかけぬけた。


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月とねずみと太陽 めん坊 @men-bou

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