018 リアルで秒で出てくるのはホラーじゃね?
世界樹の樹液。
世界樹は伝説の鉱石オリハルコンに勝るとも劣らない硬度を有しており、傷つけるには相当の労力を要する。
そんな硬度を誇る樹皮の奥には、他の木々と同様に樹液が張り巡らされている。
世界樹の葉は、死者をよみがえらせる程の効果を持つ。
そして世界樹の樹液は――1滴で、世界樹の葉と同等の効果を持つ。
基本的に世界樹の葉も樹液も入手する術は無いが、もし樹液がポーション瓶いっぱいに満たされるような場合。
その場合は、肉体の一片でも残っていれば、完全蘇生が可能であるとされている。
「こ、この度は誠に、も、申し訳ございませんでした!」
「いえいえ、このくらいどうってことありませんよお♡」
あの後、警察やら消防やら色々呼んで呼ばれて手続きして、そんなこんなしている間に、すっかり陽が傾いてしまっていた。
レモンちゃんは無理矢理学校に行かせたけど、終わったらすぐウチに来てもらって事情聴取。
可愛い可愛いレモンちゃんに大変申し訳ない事をしたよホント。
ケント義兄さんにも後で謝っておかないとな。
とりあえず今は、巻き込んでしまったマンションのオーナー、湯之谷カハイさんに謝罪だ。
一にも謝罪二にも謝罪、三・四も謝罪で五も謝罪だ。
「ところで、あの魔法の釜が爆発するって、いったいどんな錬金したんですか?」
「あー……それは、ですねえ」
三億。三億三億三億。
三億の釜の代償が、水一滴とか、怒らないよね? モノがモノだし、大丈夫だよね?
「これ、出来まして」
ポーション瓶に一滴だけちょこんと乗った水を、カハイさんに見せる。
「…………は? え?! これは!? えええええええええっ!?」
引退したとて流石は元アタッカー。
どうやらこの水に覚えがあるみたいだ。
「世界樹の樹液ってヤツらしいですね?」
「なんでそんなテンションなんですか!?」
いやなんでって言われても、せっかく買ってくれた窯が爆発したのが申し訳なくて申し訳なくて。
それに、これが世界樹の樹液だって言われてもそんなにピンと来ないっていうか……。
「世界樹の葉と、同じ効果らしいですね?」
「テンション! テンションがおかしい!」
芸人みたいに突っ込まれた。
そうか、俺がおかしいのか。……そうか。
「あの、ちょっと確認しておきたいんですが、世界樹の葉って、具体的にはどういった効果があるんでしたっけ? 人が生き返るのは知ってますが」
「は? え、ええと、確か、エジプトのミイラですら完璧に生き返るくらいの回復効果があると聞きますけど?」
「そうですか。ならよかった――育児スキル【まんま】」
世界樹の樹液のお値段は、どう考えたって二百億や一千億じゃ済まない。
なんなら一兆あっても割と怪しい。十兆したっておかしくないと思う。
カハイさんは出来た大人だから、普通に渡そうとしても断ると思った。
だから、無理矢理飲ませる事にしたんだ。
「――貴方って人は!」
カハイさんのお美しい両足が、三年ぶりにコンニチハしてくれた。
感動の涙を流しているのだろう、涙声になりながら若干鼻をすすっている彼女が実にお美しい。
「なんでこんな貴重な! 世界にただひとつだって無いような貴重な、貴重なアイテムを! 私なんかに使うんですか!?」
……なんだろ。
若干怒られている気がする。というより、呆れられている気がする。
「なんでって、足、治って欲しいと思いまして……」
「前から知ってましたけど、本当に馬鹿! 馬鹿なんですね貴方! 馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿あッ!」
ごっすんごっすん俺の胸を拳で叩くカハイさん。
おうおうおうおう、こういうのよくドラマで見るけど、実際にされる事ってあるんだなあ……。
なんか感動しちゃう。
「こんなに私に恩を着せて、どうしようっていうんですか!? 私になにしろっていうんですか!? こんな、こんな返せない恩ばっかり押し付けて! 貴方は!」
「……え? いやだから、言ってますよね? 恩は返す必要ありませんって」
「貴方、そんなんだといつか誰かに騙されますよ!? 人が良いのもいい加減にして下さい!」
うわ、なんか俺今、変な怒られ方してない?
割と新鮮で楽しいわこれ。
お美しいカハイさんに叱られるとか、マジご褒美だわー。
あー、カハイさんの怒声が五臓六腑に染み渡るわー。
「私に使うより、もっと別に使い道があったでしょう!?」
それについてはノータイムで答えさせてもらおう。
「ありませんよ?」
「…………はい?」
ハトが豆鉄砲どころか豆の機関銃でも喰らったかのような、きょとん顔を披露してくれたカハイさんがハリウッドレベルでお美しい。
「そもそも俺、カハイさんの脚が治したくて、壺買って貰ったんですし」
「あ、あ、あ゛あ、あ、ああああ――」
なにがどうなったらそうなるのか、カハイさんは全身をわなわなと震わせながら両手で頬をおさえ、喉からなんとか必死に言葉を吐き出そうとしている。
「――んもうっ♡」
どろり。
今まで見た事無いくらい、カハイさんの瞳が、めっちゃ溶けた様に見えた。
野菜とか全部どろどろに溶かしたカレーみたいになった感じがした。
なんかちょっとヤバそうな予感がしたので、ちょっと話題を別方向に振ってみる。
「あの、もっかい言っておきますけど、俺に恩を感じる必要、ありませんからね? もし、俺を見ると心苦しいとかだったら、全然引っ越すんで……いや、カハイさんから言い出せる訳ないか。引っ越しま――」
どばたん。
喋り切る直前、カハイさんが何故か俺を押し倒して来たあ!?
なんだなんだ何事だ!?
爆乳を胸に押し付けられて俺はもう何も考えられないんだが!?
なんだこの状況!? 俺は今夢でも見てんのか!? 贅沢な夢だなおいおいおいおいいっ!
「本当になんて人の良い! これは、私がちゃんと見ておかないと駄目ですね!」
「え、……え、え? え? えっ――んむうっ!?」
むっちゅーっ。
カハイさんは、己の唇を俺の唇に押し付けて来た。
むっちりと、強めに、一回だけ。
「な、なな、なにをっ!?」
もっとご自分を大切にしてください!と叫びたかったが、あまりにも気が動転してて、驚く以外何もできなかった。
そのせいでもないだろけど、この時、俺の体内に魔法が仕掛けられていたなんて、気づく由もなかった。
「いいですかタクミさん! これから、なにかあったらすぐ私の名前を呼ぶんですよ!?」
俺にのっかったまま、俺の頬を柔らかなお美しい両手で挟み、お美しい声で怒鳴って頂けた。ありがたや~。
「あ、は、はいい……」
「よろしいっ♡」
にっこり満面の笑みを浮かべてから、カハイさんはようやく俺から身体を放してくれた。
あーよかった。下半身がギンギンなのに気が付いてないともっと良い。
「私、タクミさんが呼んだらすぐに! いえ――秒で♡ 秒で駆けつけますからねっ♡」
マジで秒でやってくるだなんて、誰にも予想不可能だったと思う。
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