中華まん
塾の帰り道。
冬の夜はよく冷える。
冷たい空気は、いとも簡単に手袋の中へと入ってくる。
「私のガードは固いんだぞー……!」
隙間なんて空いてないじゃんって思うよ。
けど、寒さはじわじわと手袋を冷やしていって、終いには私の手を冷やす。
「もっと、一気に来いっていうもんだよ……」
夏の暑さは、一気に来るからまだ好きなのに。
冬の寒さは、じわじわと心まで冷やしていく気がする……。
「まったく寒いのは、嫌だなぁ……」
そんな帰り道、灯る明かりが見えた。
コンビニが見えるだけで、なんだか心が温まる気がする。
「何か温まる物でも食べたいな」
店内に入ると、レジ横のケースに残り一個の中華まんがあるのが見えた。
これは、私に買えと言ってるみたい。
すぐにレジへと行き、注文をする。
「コード決済でお願いします」
そう言ってカバンから携帯を取り出すも、携帯は黒い画面のまま動かなかった。
あれ……、マジか……。
携帯充電切れてるじゃん……。
財布持ってないんだよな、今日……。
「キャンセルでお願いします……」
買うのを諦めて、店員さんにそう告げる。
レジから離れようとすると、次のお客さんが中華まんを注文していた。
羨ましいけど、私が悪いからしょうがない。
私が買えなかった代わりに、美味しく頂いてくださいな。
そう思いながらコンビニを後にしようとすると、声をかけられた。
「……ちょっと待てよ、
聞き覚えのある声に振り返ると、そこには
「金持って無いなんて、情けない奴だな?」
「……たまたまですよ!」
私は、坂口君が中華まんを買うのを見届けると、一緒にコンビニを出た。
外は寒い世界。
コンビニで温まった身体が、また冷えだすのを感じた。
「ほら、中華まん、半分やるよ」
坂口君は中華まんを二つに割って、そのうちの一つを私に渡してきた。
「これで、温まるだろ?」
「……ありがとう」
両手の中にやってきた中華まんは、じわじわと手を温めてくれる。
その温かさを、しみじみと感じていた。
「せっかく買ったんだから、冷える前に食べちゃえよ?」
「そうだよね」
せっかくもらったものだからと、遠慮せずに口に含む。
ゆっくりと咀嚼して飲み込むと、温かさが身体にしみ渡るのを感じた。
「この中華まん、美味いな!」
「でしょ。私のオススメだよ!」
坂口くんと食べる中華まん。
なんだか、心まで温まるのを感じた。
ふいに、にやけてしまった自分に気付いて、恥ずかしくなった。
「……私のガードは、本当は固いんだからね。坂口くんが一気に距離詰めてくるから、いけないんだからね!」
隙だらけな私に、温かさを提供してくれる坂口君。
口が堅い私は、声に出さないけどさ。
……好きだよ。
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