第4話 菖蒲彩芽
彩芽と私は、旧校舎から小走りで3年5組の教室に戻っていた。次の授業は古典で、授業自体は緩いが出席確認があるのでチャイムまでに教室にいないとまずい。
「わか菜、さっきの落書きだけど...」
「まだ言ってるの?大丈夫だって...!」
「いや、大丈夫じゃない。後でちゃんと話させてもらうよ。今日の放課後、部活始まるまでの時間私に頂戴。いいね??」
「...わかったよ...。」
彩芽はいつも冗談ばかり言っている明るいギャルという感じなのだが、そんな彩芽の真面目な顔を見て、心臓がドッと大きく動くのを感じた。やはりあの落書きは重めに受け止めるべきなのか...。
「ってかわか菜、遅い!古典遅れるよ!」
「っごめっ...、彩芽がっ...速すぎるんだよお」
「もうしょうがないなあ、ほら、持ってあげるから!」
そう言うと彩芽は私の荷物をひょいと持ち上げ、片腕に荷物を全て持つと空いた手で私の手をつかんで引いた。
彩芽は本当に頼りになる。内向的な私と違って、ぐんぐん前進していく。しかもルックスも良い。170㎝近い長身で整った顔、そして髪型はハンサムショートである。男役の舞台女優さながらの容姿だ。中1の時は私よりも小さかったくせに、高校入学の頃にはすっかり追い抜かされていた。でも勉強は私よりも苦手でテスト前はいつも頼ってくる、そんなところは茶目っ気があってかわいい。明るくて人気者なのに、ずっと私と仲良くしてくれる良い友人だ。
渡り廊下を抜け、新校舎の西階段を駆け上がり、3階の廊下のちょうど真ん中に3年5組の教室がある。
「ギリギリセーフ!!!」
そう彩芽が言って駆け込んだ直後、6時間目開始のチャイムが鳴った。
古典の
『いいですかみなさん、古典文学は大体エロ本です!』
である。古典の授業の2割くらいは性教育なのではないかと思うほどそういう話をよくするので、生徒からのあだ名は「みねこママ」だ。でもちゃんと授業は進むし、温かみがあって生徒に慕われている。
先週から、賢木という巻をつまみ食いで習っている。54ある巻のうちの10巻目である。この巻には、
私は部活の後輩の優等生、五十嵐律華を思い浮かべた。
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