STRIDER:鋼鉄の絆
@takuya_0528
プロローグ:平和の終わり
2097年 5月18日午前6時。遠州灘からの風が滑走路を吹き抜け、朝靄が薄く剥がれ、浜松基地の格納庫を照らす。整然と並ぶ量産型ストライダーF-12《Raijin》が起動を待ち、低いモーター音が響いていた。
「海斗、今日も寝坊ギリギリか?」
軽口を叩いてきたのは山城。肩に手を置き、にやりと笑う。
「お前こそ昨日のシミュレーション、命中率ギリギリだったろ」
「だからこそ今日で取り返すんだよ。なぁ古賀」
「お前ら、仲良く心中すんなよな」
古賀が笑いながら首を振る。三人は訓練中でもいつもこんな調子だ。
「貴様らァァ! 訓練中に私語をするなと何度言えばわかる!」
格納庫全体が震えるような怒号。大森曹長だ。叩き上げの鬼教官にして、夜間訓練の差し入れを欠かさない男。三人は反射的に背筋を伸ばした。
「F-12一番機、長瀬海斗。起動チェック開始します」
海斗はスイッチを一つずつ確認し、HUDに並ぶ数値を目で追う。油圧、電圧、関節トルク、センサー感度――全て良好。
そのとき山城が無線に入った。
「今日は俺と古賀が1組、海斗は新庄と組め。ツーマンセルの基本だ、頼むぞルーキー」
「了解。山城リード、古賀ウィング、俺と新庄でサブカバーだな」
新庄の「任せろ」という声が短く入る。訓練通りの朝、いつものルーチン――この瞬間までは。
低音が空を裂いた。地平の向こうで閃光が弾け、通信塔が火柱に包まれる。
「ミサイル着弾! 長距離通信アンテナ被弾、レーダードーム損傷!」
「格納庫第三、直撃! 繰り返す、第三格納庫――!」
次々と上がる報告。指揮系統の声が一つ、また一つと途切れていく。
だが市街地は無傷、滑走路も無事だ。敵は奪うために壊している。
「全機聞け!」大森の声が響く。
「警戒態勢を取れ! 通信は潰された、だが我々はまだ生きている! 訓練通りに動け!」
山城の声が緊張に震える。
「……おい、上だ。何か来るぞ」
海斗が見上げる。雲の切れ間から十の黒影が火を引いて降下。低空で一斉に背部ユニットを切り離し、二脚で地面に突き刺さる。
「ストライダーが……空からだと!?」
「動きが……速い、速すぎる!」
「あのGに耐えられるのか!?」
敵は整然と散開し、指揮型と思しき二機を先頭に攻撃を開始。肩部砲塔が正確にこちらをなぞり、コンクリートが砕け散る。
「全機散開!」大森の声が割れる。
「敵はたったの十機だ! 訓練通りツーマンセルで戦え! これは戦争だ!」
二十機の雷神が一斉に飛び出した。
山城と古賀のペアが正面から敵を釣り、海斗と新庄のペアが側面へ回る。
訓練通り――だが敵は訓練の範疇を超えていた。
「古賀、回避しろ!」
「ちっ、追いつかれ――ぐあああっ!」
古賀機が爆ぜる。山城が咆哮し、囮となって敵指揮機を引きつける。
「来いよ化け物が! 海斗、今だ、回り込め!」
海斗は照準を重ねる。だが敵僚機が割り込み、山城の機体に連射。
「山城っ! 下がれ!」
「まだだ、俺が釣る! 古賀の仇――」
閃光。山城機の頭部ユニットが弾け飛ぶ。無線が途切れ、炎だけが残った。
次々と沈黙する味方。残るは数機。海斗の射線に敵指揮機が重なり、銃口が向く――。
「長瀬ェェ! 伏せろッ!!」
大森曹長のF-12が横合いから体当たりし、敵指揮機の脚部を撃ち抜く。
「……ったく、手間のかかる教え子だ……長瀬、生き延びろ」
敵の反撃。大森機が胸部ごと火に包まれ、倒れ込む。だが指揮機も脚を引きずり撤退。残る敵も増援接近を察知し、姿を消した。
東の空から三角隊形のストライダー部隊が到着。先頭のF-12改修機が接地し、無線が入る。
「こちら岐阜基地所属、防衛装備戦術評価部隊、隊長の神谷静香三等空佐だ」
海斗は息を詰まらせたまま答える。
「……浜松基地第三ストライダー中隊、長瀬海斗二尉。生存者……俺だけです」
無線の向こうで彼女は短く「了解」とだけ言った。
それは慰めでも命令でもない。ただ、次へ進めという強い声だった。
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