番外編:田野倉花恵の怪文書
『自宅に到着! 今日はありがとう、楽しかった!』
送信完了。
全体重を開放してベッドに倒れ込む。
『
間髪入れずに
昴は優しい。
ずっと行きたかったパンケーキのお店に連れて行ってくれた。私のしょーもない話をニコニコと聞いてくれる。
今日は、そのあとカラオケ行って、夜はマックで軽く食事して、それで解散して。
もっと一緒に過ごしたかったな、と思う。昴は今、どんな気持ちでいるだろう。……寂しい、だなんて思ってないよな、私じゃあるまいし。
寂しい、と頭の中で言葉にした瞬間、じわっと涙が滲んできた。脳みそも涙腺も単純すぎる。
『……愛してるぞ、すばるん』
泣きながらそんなメッセージを打った。おちゃらけた文面のはずなのに、それを送信しようとすると悲しくてたまらなくなる。
昴は優しいけれど、私を好きだとか、愛してるだとかいう言葉は与えてくれない。
要は、私ばっかりが昴のことを好きなのだ。
昴の彼女を名乗れているってだけでも感謝するべきなんだろうけれども、私はそれ以上のことを望んでしまう。強欲だからさ。
私は送信ボタンを押して、目を腕で覆った。泣いてる自分がキモくてキモくて仕方ないように思えた。
自分がブスなのは知ってる。その泣き顔だなんて、もはや死んだ方がマシなレベル。あーあ、ボクが爆美女だったら世界は平和だったんだけどなー。
女というのは誰しも、一人でいるときに恋人の顔を思いだしては、いちいち不安に苛まれるものだ。
不安で、けれど愛しくて、会ってきたばかりなのにもう会いたくなる。
なんでこんなに苦しむほど好きなんだろう、頭おかしいんか。そんで悲しくなる。そんな無意味な理由で泣いてることにも自己嫌悪する。
あーもー、ヤダヤダ。
実在する三次元の男にヘラってる自分がいやだ。しんどい、死ぬほどしんどい。
顔は誰が何と言おうと私のタイプだ。一般的な評価としても、悪くはないんじゃなかろうか。
それでもって、穏やかで、高圧的じゃなくて、気遣いができて、いつも自信がない目をしていて、無防備で騙されやすそう。
そして、私に対して恋愛感情はない。
恐ろしいことだ。そこまで分かってて、どうしてそんな人を好きになったんだろう。彼女にしてもらえれば何か変わると思ったか? んなわけなかったわ、アホタレ。
……なんだかブルーになりすぎた。せっかく昴と会えた日なのに。
気持ちを切り替えるためにスマホを手に取る。こういう時にやることは決まっている。支部で推しカプの二次創作を漁ること。
そして『P』のアイコンをタップしようとした時だった。
『俺も花恵のこと愛してるよ!』
いきなりそんな返信が来て、危うく端末を顔面に落とすところだった。
オイオイ、なんだよそれは!
『どういう心境の変化だ、バカ』
入力するだけして、送るか送るまいか指が迷った。
不条理的モラトリアム 焼おにぎり @baribori
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