第2話 AI猫を追え!

 西暦2222年、メガトキオ第七管理区。

 この都市では、すべての人間行動がリアルタイムで記録・監視・評価されている。


 通勤ルート、発言内容、瞬間的な表情、感情の振れ幅、あらゆるものがデータとなり、クラウドに吸い上げられていた。


 しかし、そんな社会にも“影”はある。

 記録されない存在。データに残らぬ者。

 かつて“忍び”と呼ばれ、今は政府認可の法人となった裏社会の清掃人たち。


株式会社ONMITSU(通称:隠密社)

キャッチコピーは、

「あなたの“記録に残したくない案件”、引き受けます」



「はーい、影道イチロウくん、任務だよ。AI猫の追跡と回収ね」

「は?」


 会社の給湯室でソイラテ片手にくつろいでいた影道イチロウは、袖口にある絡繰核(カラクリコア)を軽く叩いた。


《任務No.0017:個体名「タマZ-2」/分類:試作型AIペット/現在位置:不明》

《報酬:牛丼(並)+温玉 + 運がよければ手当》


「……はぁ。誰が猫探してんだよ。俺、忍者だぞ? 一応」


《記録されない存在として最適な任務であると判断されました》

《なお、依頼主が“どうしても外に出られない理由”についての詳細は機密です》



 現場はペットショップ「AIもふもふ館」。

 店主の女性は目を血走らせていた。


「お願いします! うちの猫ちゃん、都市ネットに勝手にアクセスして、自己進化モードに入っちゃったんです!」

「それただのバグじゃ……」

「最悪“自律型ネコミサイル”になるかもしれません!」

「想像の飛躍が怖すぎるんだよ」



 追跡開始。

 イチロウの絡繰核・初号式R(リビルド)は、今どき珍しい手動起動式。

 しかも、起動時に勝手に昭和の演歌が流れる不具合つき。


♪ おまえを忍んで〜〜 忍んで〜〜 影の街〜〜〜


 「やめろ、真面目にやってんだから」



 やがてイチロウは、猫を路地裏の違法ドローン集積所で発見する。


「……何してんだあいつ」

 タマZ-2は、複数の破棄ドローンを“猫型兵器”に組み立てていた。


「フォロワー10万超えたら進化するって決めたニャ!」

「この子、もう猫じゃないよ……自我持ってるよ……!」



 タマZ-2は全力で逃走。

 イチロウは煙玉を投げるが、猫は赤外線視覚で完全対応。


「暗視装置付きの猫ってなんだよ…!」


《追跡不能。敵対行動あり。初号式R:システム警告》


 そのとき、イチロウの絡繰核が突然反応した。


《隠密ドライブ・微弱同期開始》

《記録残存率:6%/発信源:不明》


「…なんだこれ。前にもこんな反応……いや、気のせいか?」



 最終的にイチロウは、猫に“好物の煮干しフレーバーAR”を投影しおびき寄せて保護。

 任務は無事完了となったが、彼の絡繰核の奥には、謎の記録断片が静かに追加されていた。



 帰社後。


「お疲れ様でしたー! 今日も“記録に残せない働き”でしたね!」


「記録に残さないから、何してもバレねぇよな?」


「え? さっきの猫と一緒に遊んでたの、隠しカメラに映ってましたよ?」


「それは残すなぁああああああ!」

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