第8話「世界の果てと勇者の嫉妬」
世界の果て。それは、地図にも載っていない未踏の地。俺たちはルクスの案内で、険しい山脈を越え、深い森を抜け、ついにその場所にたどり着いた。
目の前に広がっていたのは、言葉を失うほどの絶景だった。大地が途切れ、その先は果てしない雲海が広がっている。そして、その雲海の中から、天を貫くように巨大な塔がそびえ立っていた。
「あれが……天の塔……」
「原初の魔導書が、あそこに……」
リリアとフィーネも、息をのんでいる。
塔の入り口は、強力な魔法で封印されていた。
「この封印を解くには、それにふさわしい資格を持つ者の力が必要だ」
と、ルクスは言う。
「資格を持つ者……?」
俺たちが首をかしげていると、背後から聞き覚えのある声がした。
「その役目、俺たちが引き受けよう」
振り返ると、そこに立っていたのは、勇者ジンとその仲間たちだった。
「ジン!? なぜお前がここに!」
「国王陛下から、お前たちの補佐をするよう命じられたんでな。世界の危機とあっては、個人的な恨みは一旦忘れようじゃないか」
ジンはそう言ってにやりと笑ったが、その目は笑っていなかった。彼の瞳の奥には、俺に対する嫉妬と対抗心が渦巻いているのが見えた。
「ふん、まあいい。こいつの聖剣なら、この程度の封印、一撃だろう」
ジンは腰に下げた聖剣を引き抜き、封印が施された扉に振り下ろした。しかし、甲高い音を立てて剣が弾き返されるだけだった。
「なっ……!?」
「無駄だよ、勇者。その封印は、物理的な力では破壊できない」
ルクスが冷静に告げる。
「じゃあ、どうすればいいのよ!」
フィーネが叫ぶ。
俺は、封印の扉に刻まれた紋様をじっと見つめていた。それは、ただのデザインではない。複雑な文章で構成された、一種のプログラムのようなものだ。そして、そのプログラムの中に、致命的なバグを見つけていた。
【封印解除条件】
聖なる力を持つ『勇者』が、扉に触れること。
「なるほどな……」
俺はジンに向き直った。
「ジン、お前が勇者だと、この扉は認識していないらしい」
「なんだと!? ふざけるな! 俺は正真正銘、聖剣に選ばれた勇者だぞ!」
「ああ、そうだな。だが、この文章には、そう書かれていない」
俺はスキルを発動し、扉の文章を全員に見えるように可視化した。
「ここに、こう書いてあるんだ。『勇者』の前に、一文字、余計なものがついている、と」
【封印解除条件】
聖なる力を持つ『偽勇者』が、扉に触れること。
「偽……勇者……?」
ジンは絶句し、その場に膝から崩れ落ちた。自分が信じてきたものが、根底から覆されたような顔をしている。
「そんな……馬鹿な……」
「これも、原初の魔導書のバグの影響だろう。誰かの悪意か、あるいはただのタイプミスか。いずれにせよ、お前は世界のバグによって、『偽りの勇者』にされてしまっていたんだ」
俺は、震える彼の肩に手を置いた。
「だが、それも今日で終わりだ」
俺はスキルで、「偽」の一文字を削除した。
【封印解除条件】
聖なる力を持つ『勇者』が、扉に触れること。
「さあ、もう一度やってみろ。本物の勇者」
ジンは、しばらく呆然としていたが、やがてゆっくりと立ち上がり、扉に手を触れた。すると、扉はまばゆい光を放ちながら、静かに開いていった。
「……ありがとう、カナデ」
ジンは、初めて素直な言葉を口にした。その目には、もう嫉妬の色はなかった。
俺たちは、ついに原初の魔導書が眠る塔の内部へと、足を踏み入れる。しかし、そこには、俺たちの想像を絶する「最後の番人」が待ち受けていた。
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