第3話「追放ざまぁと、新たな仲間?」

「本当に良かったのですか、リリアさん。パーティを抜けてしまって」

 街の宿で、俺は向かいに座る聖騎士に尋ねた。彼女は力強く頷く。

「もちろんです! あなたは私の恩人です。それに、今の私は力がみなぎっています。あなたと一緒なら、どんな困難も乗り越えられます!」

 すっかり自信を取り戻した彼女は、以前のおどおどした姿が嘘のようだ。きらきらした瞳で俺を見つめてくる。なんだか少し、気恥ずかしい。

「それよりカナデさん、先ほどから私の顔をじっと見て、何か?」

「あ、いや、その……」

 実は、彼女のステータスをもう一度確認していたのだ。そこには、俺が修正した覚えのない項目が追加されていた。


【称号】カナデの守護騎士

【スキル】カナデへの絶対忠誠


(なんだこれ!? 俺が修正した影響で、新しい設定が生えてる!?)

 どうやら俺のスキルは、単に誤字を直すだけでなく、対象の存在そのものに影響を与えてしまうらしい。世界の理を書き換える、とはこういうことか。これは、慎重に使わないととんでもないことになるかもしれない。

「さて、今後のことですが……」

 リリアが話を切り出す。

「まずは、あのグリフォンを退治して、私たちがジンさんたちより有能だと証明してやりましょう!」

「ええっ!?」

 リリアはすっかりやる気だ。彼女の勢いに押され、俺たちは二人でグリフォンの砦へ向かうことになった。


 砦に到着すると、中から激しい戦闘の音と、ジンの怒鳴り声が聞こえてきた。

「くそっ! なんで今日のグリフォンはこんなに強いんだ!」

「リリアがいないと前線がもたない!」

 どうやらジンたちは、グリフォンに苦戦しているらしい。臆病だったリリアがパーティの要だったとは、皮肉な話だ。

 俺たちが砦の中に入ると、ボロボロになったジンたちがグリフォンの強烈な一撃を食らって吹き飛ばされるところだった。

「危ない!」

 リリアが即座に前に出て、大盾を構える。

「【ホーリーウォール】!」

 彼女が叫ぶと、光の壁が出現し、グリフォンの爪撃を完璧に防いだ。

「リ、リリア!? なんでお前がここに!?」

「カナデさんと一緒に、あなたたちを助けに来ました!」

 リリアは剣を抜き、グリフォンに向かっていく。その動きは、以前とは比べ物にならないほど力強く、洗練されている。まさに聖騎士の名にふさわしい戦いぶりだ。

 しかし、グリフォンも手ごわい。リリアと互角に渡り合っている。

(何か、俺にできることはないか……?)

 俺はスキルでグリフォンのステータスを確認する。


【名前】グリフォン

【状態】凶暴化(きょう『ぼう』か)


 またルビだ。しかも、よく見ると「ぼう」の文字が微妙に震え、赤く点滅している。これは、強力なバグの証拠だ。誰かが意図的に、このグリフォンを凶暴化させたに違いない。

 俺はスキルを最大に集中させ、震えるルビに狙いを定めた。

(世界のバグは、俺が正す!)

「修正!」

 ルビが正しい表記に書き換わる。


【状態】凶暴化(きょう『もう』か)


 すると、グリフォンの全身を覆っていた禍々しいオーラが霧散し、その動きが明らかに鈍くなった。

「今です、リリアさん!」

 俺の叫びに、リリアが応える。彼女の剣が閃光を放ち、グリフォンの首筋に深々と突き刺さった。巨大な魔物は、断末魔の叫びを上げて崩れ落ちる。

 静まり返る砦の中、ジンが呆然とこちらを見ていた。

「な……なんだ、今のは……。お前が、やったのか……? カナデ……」

 俺は何も答えず、彼に背を向けた。

「行きましょう、リリアさん」

「はい!」

 俺たちは、追放されたパーティに一瞥もくれず、砦を後にした。最高の「ざまぁ」だった、と言えるだろう。


 街に戻り、ギルドで報酬を受け取っていると、人だかりができていた。掲示板に貼られた、一枚の依頼書に注目が集まっている。

「北の賢者の塔で、魔法が暴発する事件が多発? 犯人は、塔に住む天才魔導師フィーネ様らしいが……」

「ああ、あの落ちこぼれの。一族の恥さらしだって噂だぜ」

 天才なのに、落ちこぼれ? その矛盾した言葉が、俺の校正者魂に火をつけた。

「リリアさん、次に行く場所、決まりました」

 俺たちの新たな旅が、今、始まろうとしていた。

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