勇者パーティを追放された俺のスキルは【文章校正】。バグまみれの世界で神の誤字を修正していたら、いつの間にか伝説の英雄になっていた件
藤宮かすみ
第1話「ようこそ、バグだらけの世界へ」
「五十嵐奏さん、あなたはお亡くなりになりました」
目の前に広がる真っ白な空間で、女神を名乗る美女がそう告げた。享年二十六歳。死因は、山積みのゲラ(校正紙)に埋もれての圧死。校正者としては、ある意味本望……なわけあるか!
「お気の毒に。ですが、あなたには第二の人生をプレゼントします。剣と魔法の異世界『ヴェルダニア』で、新たな生を始めるのです!」
女神様はウィンクしながら、俺の手の甲に触れた。じんわりと温かい光が広がり、そこには【文章校正】という文字が浮かび上がっていた。
「それがあなたのスキルです。それでは、よき人生を!」
「え、ちょ、説明ッ!?」
俺の叫びもむなしく、足元が抜け、意識は急速に遠のいていった。
次に目覚めた時、俺は見知らぬ森の中にいた。状況を整理しよう。俺は死んで、異世界に転生した。与えられたスキルは【文章校正】。前世の職業がそのままスキルになったらしい。
(よりにもよって、戦闘とは程遠いスキルだな……)
がっかりしていると、視界の端に半透明のウィンドウのようなものが見えることに気づいた。目の前の木に視線を向けると、こう表示された。
【名称】オークの木
【説明】ゴブリンの親戚であるオークが好んで住処にする木。とても頑丈。
オーク? ゴブリン? ファンタジーの世界なのは間違いないらしい。試しにスキルを発動してみようと意識を集中すると、説明文の「オーク」の文字が赤く点滅した。
「誤字……?」
よく見ると、木の名前は「オーク」なのに、説明文では「ゴブリンの親戚であるオーク」と書いてある。この世界のオークはゴブリンとは全く別の種族なのかもしれない。だとしたら、これは明らかな矛盾、つまり文章のバグだ。
俺が「修正」と念じると、赤い文字がすっと消え、正しいであろう文章に書き換わった。
【説明】猪に似た魔物、オークが好んで住処にする木。とても頑丈。
「おお……本当に校正できた」
しかし、これに何の意味があるのか。そう思っていた矢先、背後から猛烈な勢いで何かが突っ込んできた。
「ブゴォォォッ!」
振り返ると、そこにいたのは巨大な猪……いや、オークだった。さっき修正した説明文通りの魔物が、牙をむき出しにして突進してくる。
「うわあああぁぁぁっ!」
転生初日にして、俺はまた死ぬのか!? 絶体絶命のピンチ。だが、その時。
ドォォン! という轟音と共に、オークの巨体が横から吹き飛ばされた。
「大丈夫ですか!」
そこに立っていたのは、銀色の鎧に身を包んだ、いかにも勇者といった感じの青年と、数人の仲間たちだった。
「助かりました……!」
「俺は勇者ジン。魔王を倒す旅をしている。君、名前は?」
「カナデです」
事情を話すと、勇者ジンは「スキルを見せてみろ」と言った。俺が【文章校正】のスキルを見せると、ジンの顔があからさまに歪んだ。
「は? 文章校正? なんだそのゴミスキルは。何の役にも立たないじゃないか」
彼の仲間たちもクスクスと笑っている。
「まあ、人手は多い方がいい。荷物持ちくらいはできるだろ。ついてこい」
こうして俺は、不本意ながら勇者パーティに拾われることになった。だが、これが新たな苦難の始まりだということを、この時の俺はまだ知らなかった。この世界が、神様のタイプミスで満ちた、とんでもないバグまみれの世界だということも。
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