メアリー・スーは夢を見る。

温いソーダ

第1話

 メアリー・スーは夢を見る。

 平凡にテストに失敗して、平凡に恋が終わり、平凡に人に愛され、平凡に結婚して、平凡に家庭を持って、平凡に死ぬ。

 特に目立つこともなく、物語の主人公ではない世界。

 メアリー・スーはそう願った。

 しかし、世界 彼女の思ったよりも残酷で、彼女を主人公に仕立て上げた。

 どんな平凡な属性でも関係なかった。運命的な出会いと後天性の人の良さが彼女を苦しめた。

 完璧で、誰からも愛されて、世界が神が自分を好いている。そんな素晴らしく吐き気のする世界。

 平凡な属性であることを望んだが、彼女はまたもや主役になった。

 彼女はそんな世界を嘆き苦しんだが、表では笑顔を振りまいて人はまた彼女を愛した。


 また、生まれた。

 でも今回ばかりは違うようだった。

 窓の外からかすかに笑い声が聞こえる。輪の中には美しい少女がいて、一際目立っていた。

 今回の主役はきっとあの子だ。メアリー・スーは思う。その瞬間、胸の中にあった何かがほどけた気がした。

 彼女は廊下を移動する間、窓をまた見つめていた。

 生憎の雨でなんだか心まで沈むような気がした。

 隣ではさっきの主役が楽しそうに微笑んで話している。私は脇役にすらいなかった。

 よかった。この世界は彼女の世界。彼女が主人公の物語なんだ。

 彼女はそっと胸を撫で下ろす。横目で彼女を見て心の中で感謝した。


 メアリー・スーは本を見る。

 表紙には少女が幸せそうに微笑み、気高そうに鼻を鳴らし、色鮮やかに描かれていた。

 一番目立っていて、間違いなく主役の少女。

 メアリー・スーはそう思った。

 彼女は本を手に取り読んでみる。すでに視界は良くなかったが、都合よくその本だけははっきりと読めた。

 お迎えの時間も忘れて彼女は必死に読み進めていく。その間にも何人かの友人や家族が来て、果物を持ってきたり、昔話をした。みんな彼女を愛していた。

 最後のページを読み終えた途端、彼女は苦しみ始める。

 確かに自分によく似た人生が描かれた小説だった。共感もしたし、あの頃を懐古した。

 最後のページ。そこには先ほどまでしていたことが記されていた。

 彼女は本を手に取り読んでみたこと。すでに視界は良くなかったが、都合よくその本だけははっきりと読めたこと。

 お迎えの時間も忘れて彼女は必死に読み進めたこと。その間にも何人かの友人や家族が来て、果物を持ってきたり、昔話をしたこと。みんな彼女を愛していたこと。

 それが最後の一ページ。それが貴女の終わりの日の行動なのです。

 貴女はメアリー・スー。平凡を望んだが故に行動を起こした哀れな主人公。

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