第一話:狂狼病

狂狼病①:鬼診療所⇔ 受付開始

 とある島国。とある片田舎。ここに一軒の診療所がある。

 この診療所は、オレンジ色の煉瓦造りで、出入口には

 

『人も魔物も受診可。診察は日の入りから日の出前まで。』

 

『診察代はいただきません。代わりに血液(最小100㎖・最大400㎖)を分けてもらいます。


鬼診療所所長』

 

と書かれた張り紙が貼ってある。そして


『平日のみ!!副所長』


と綺麗な字だが殴り書きされた様な貼り紙も貼られている。


 ここは、鬼診療所(きにょうしんりょうじょ)。

 字面だけ見ると、鬼の診療所と書いてある。


 最初の張り紙だけを見るとなんだか少し怖い気もするが、この診療所はとても評判がいい。

 先生の医師としての腕は良く、性格も気さくで信頼があるからだ。

 そのおかげなのか?せいなのか?

 診療所は近隣住民の憩いの場にもなっている。わざわざ遠方から通う者もいるくらいである。


 張り紙の内容から想像出来る人もいるかもしれないが、敢えて説明すると

 

 この診療所の所長は!

 なんと!!

 吸血鬼である!!!

 

 先生の名前は鬼魑魅(きにょうすだま)。みんなからは尊敬と親しみの念を込めて、鬼先生(きにょうせんせい)と呼ばれている。


 血を取り扱う医師が吸血鬼であると分かり、不安になる人もいるかもしれない。

 けれど、安心してほしい。


 鬼先生はほとんど血を食べない。週に1回、それも、400㎖だけ。

 わかりやすく説明すると、献血の量と同じ、一般的なペットボトル一本分に満たない量となる。

 なぜこれだけしか食べないのか、それは、血液アレルギーだからだ。


 アレルギーを極力避けるため、鬼先生は吸血鬼でありながら血をあまり食べない、というか食べられない。


 肉嫌いのライオン、花粉症のミツバチ、暗所恐怖症の蝙蝠みたいなものだ。


 吸血鬼として最低限の必要な栄養を摂取するために食べるだけである。


 診療代の代わりに血をもらう理由は、もちろん『食べる』という理由があるが、『研究のため』でもある。

 これは、アレルギーを治すための研究である。主に血中の細胞に着目して研究している。

 だから、診療の報酬として頂いた血の使い所は圧倒的に研究に費やす方が多い。

 これで少しは安心してもらえただろうか?


 さて、そろそろ日の入り。


 一癖ある患者達。

 二癖ある医者や看護師達。

 今日も鬼診療所の1日が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る