神・現代見聞録

にっしーP

第1話 十数年ぶりの神隠し

 出雲で、十数年ぶりの神隠しが発生した。粟津稲生神社近くの線路沿いの森に黄昏の光が木々の間に差し込み、風もない静寂の中、微かに低くざわめく音が漂っていた。京都(けいと)から内閣府直属の浄界突入隊が派遣され、大規模な捜索作業が始まろうとしている。


 神隠しは現代において極めて稀で、国内外の関心も高い。現場には神災対策庁長官や内閣府関係者、報道機関、さらには海外メディアも集まった。神域内の観測や取材には特別な許可が必要であり、隊員や関係者は、今回の神隠し専用に緊急開発された護符のアプリを専用の端末に表示して調査に臨んだ。これにより、異界の存在に魅入られたり、新たに神隠しに巻き込まれるリスクをある程度は回避できる。浄界突入隊は19名で編成され、突入班12名、外周警戒・監視班7名に分かれている。突入班は、空間歪計(Spatial Distortion Meter:SDM)、曲率可視化ディスプレイ(Curvature Imaging Display:CID)、エネルギー安定化装置(Energy Stabilization Apparatus:ESA)、高解像度空間撮影カメラ(High-Definition Spatial Camera:HDSC)を現象制御ユニット(ECU: Event Control Unit)に統合して携帯。神的存在が引き起こす微細な空間歪みやエネルギー変動を科学的に解析し、神域内部の危険度を評価する。突入の直前、隊長である上席浄化官が御幣を手に取り、今回の神隠しのいては現状の分析から古式の祓い言葉が適切と判断し、それを唱える。隊員たちはECUを起動し、古来の神道儀式と現代装置を組み合わせて神域の「門」を開く。空間のひだを局所的に固定化し、さらなる歪みの拡大を防ぎつつ、安全に進入ルートを確保する。外周警戒班は、森の入り口に臨時で小さな社を組み、その下でモニターを監視する。社の内部にはSDMやCIDの画面が並び、突入班の進行状況や神域の歪み状態が常に表示される。異変があれば即座に警告が発信され、突入班に遠隔指示を送る。


 黄昏に沈む森の奥から微かなざわめきが届き、警戒班の緊張感をさらに高めていた。突入班の隊員たちは慎重に列を組み、空間歪計やCIDを確認しながら歩を進める。必要に応じて御幣を振り、ESAで神域内部のエネルギーを安定化させる。光学モニターには、空間の微細なひずみや偏光の乱れがリアルタイムで表示され、隊員はそれを読み取りながら安全な進行ルートを決定する。 報道関係者は、外周警戒班の誘導の下、社の周囲で慎重に取材を行う。内閣府関係者や海外メディアも同様に、社から隊員の行動や神域の変化を映像や記録媒体に収める。


 こうして、十数年ぶりの神隠し現場では、科学装置と神道儀式が融合した緻密な作業が進行していた。神域の中で、どんな未知の現象が待ち受けているのか、誰も完全には予測できないまま作業は続く。

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