『夜怪録 ― 現代怪異譚』

SHIKOH

0 . プロローグ

 こんばんは。


 人はみな、日常という名前の舞台で役を演じています。会社員、主婦、学生……役の種類は人それぞれ。台本通りにセリフをこなし、予定された場面を繰り返す。


 毎日は、きわめて退屈で、きわめて安心な“お芝居”です。けれど時に、その舞台には決して予定されていない“誰か”が上がってくることがあります。スタッフリストにも載っていない、配役表にもいないはずの役者。


 それはあなたの隣の席に座っていたり、何気ない日常の会話に混ざっていたり――あるいは、鏡の中から微笑んでいたり。


 気づいた時には遅いのです。


 舞台の上で予定通りの台本を演じていたはずのあなた自身が、気がつけばその“奇妙な芝居”の中心に立っている。


 そこで交わされるセリフは、台本には存在しません。そして観客席から拍手が起きることもない。人はそんなイレギュラーな存在のことを、こう呼びます。



――怪異、と。



 それでは、幕を開けましょう。

 台本の無い物語をお楽しみください。

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