パンダちゃんと幽霊の女の子は、生きがいを求めてお笑いコンビを組んでみた。……まあ死んでるんですけれども。

ねこゆき

第一景 なら異世界転生だ?


 この作品は始まりの一週間は連続更新の予定です。

 以降、毎週火曜・金曜の21時の更新予定です。




 *――*――*――*――*――*――*




「「ど~も~、草葉の陰からうらめしや~」」


「呪いのパンダちゃんと!」「怨みのレイちゃん!!」


「「二人合わせて『うらめし屋』です!!!」」


「「名前だけでも、覚えて帰ってくださいね~」」


 その日、お笑いライブに現れたのは、パンダのぬいぐるみを抱えた白いワンピースの美少女だった。


(どうしてこうなった!)


     *     *


 ……遡ること半年前。


「知らない天井だ」


(いや、知らないどころか青空ですぞ)


「痛たたた、やめッ、やめてっ!」


(飢えた凶悪モンスターたちの前でワタクシの命は風前の灯火ですぞ。

 思えば短い転生生活でした。冒険者ギルドで絡まれたり、ダンジョンに潜ったり、ケモ耳やエルフの美少女とキャッキャウフフとしたかったですぞ……。


 こういう時って大体は、キラキラした女神様的なのが現れるものなんではないでしょうか?

 んで、無双スキルとかアイテムを授けてくれて、胸踊る世界に転生する流れでは。


 それがまさかの出落ちとは……クーリングオフお願い致しますぞ)


「わん、わん! 付喪神様、どうか私の家へ!

 庭付き一戸建て、冷暖房完備、三食昼寝に、今なら『ちゅ~る』もついてますワン!!」


(犬型モンスター(多分フェンリルだと思う)がワタクシの頭にくらいついておりますぞ)


「カー、カー! 何を言っている! 紐つきの駄犬!!

 フラット三十五年ローンの家から逃げ出したくせに! カーカー!」


(鳥型モンスター(グリフォンに違いない)がワタクシの腕を咥えておりますぞ)


「カー! 付喪神様、どうか我が社へ!

 霊験あらたかなパワースポットの御神木、今ならペントハウスへお迎えいたしますカー!!」


「ゴミあさりの鳥ふぜいワン!

 吹きっさらしのそんな場所に付喪神様を置いておけるかワン!」


(どうやら飼い主から逃げ出したペットの犬と、近所のカラスがワタクシをめぐって火花を散らしていますな。


 ……犬、鳥、ときて猿が揃えば鬼ヶ島に行くのですかな?)


『パトリシアー! パトリシアー、どこなのー』


「やべッ! ご主人がやって来たワン!」


「むっ! いずれまたお迎えに参りますカー!」


 脱走したペットを探しに来た飼い主に、モンスターたちはすごすごと退散するのだった。


(それにしてもパトリシアって、アナタ……)


「はぁ、なんだったんだ今のは……」


(冒険の旅が始まる前にHPがなくなりそうだ。責任者出てこ~い!

 早よスキルとアイテムを要求いたしますぞ! ケモ耳少女とエロフ連れて来いですぞ!!


 ……ワタクシとした事が思わず感情的になってしまいました。反省ですぞ)


(と、安心したのも束の間。草むらから怪しい影が。

 むむっ、新たな刺客か!?)


「まったく、あの馬鹿どもときたらにゃあ……あんた無事?

 ……ではないようにゃ」


「出た! キラーパンサー!(普通のオスの黒猫だと思う)」


 黒猫は、先ほどまでのやりとりを聞いていたようだが、犬やカラスのような殺気は感じられなかった。


「怪しい猫ではないのにゃ。飼い猫のレンゲ。オスなのにゃ。

 近所でママとレイちゃんと自分の、一人と一人と一匹で暮らしているのにゃ」


(一人と一人と一匹ってどゆ事?)


「それにしても、あちこち破れてるのにゃ。

 とりあえず家まで連れてくのにゃ、そんで傷の手当てという事でいいかにゃ?」


 どうやら満身創痍らしい上に、右も左もわからないこの状況、一も二もなくレンゲさんに咥えられて行くのであった。


「何でこうなった……」


 ……ドナドナドーナ♪


「にゃあ(ママ、ただいま)」


 生垣のトンネルを抜けると古びた家の庭先に出た。

 縁側には丸眼鏡に白髪の優しそうなおばあちゃん。座布団の上で船を漕ぐようにうたた寝しているようだ。


 彼女がレンゲさんの言うママらしい。


「また、ママ、自分の世界に入ってるにゃ」


 レンゲさんがおばあちゃんの膝を肉球で叩くと、おばあちゃんは気がついたのか耳元からイヤホンを外した。


 音漏れする重厚なギターリフ、叩きつけるドラム、力強いボーカルがシャウトする。


(やべっ、ヘビィメタルですぞ、これ)


「ふぅ~、やっぱり『アイアン・メイデン』は最高ね。

 おやレンゲ、お帰りなさい」


(今日一番のモンスターが現れましたぞ!)


「あら、可愛らしいお客様。かわいそうに怪我をしているのね。それにこんなに汚れて」


「にゃあ(何とかしてくれにゃ)」


「破れたところは繕って、きれいにしてあげましょうねぇ」


(繕うって、どうやらワタクシは人間ではないようですぞ。

 視界に入る手足はタオル地のモフモフ……中身は綿ですな!?


 足元にタグがあるような……『Panda Collection – Made in China』?)


(う~む……ぬいぐるみだなこりゃ)


「ところでレンゲ、どこからこの子を連れて来たの?」


 レンゲさんは毛づくろいに夢中で気が付かない。


「明日、掲示板にお知らせするから、しばらくアナタもココでいい子にしてましょうねぇ」


 おばあちゃんは針箱を用意すると、ちぎれかけた頭と右手を直してくれている。


(……チクチク、チクチク、チクチクッと)


 柔らかな秋の陽射しに包まれた縁側に、ヘビィメタルのビート流れる穏やかな午後のことでした。


「『……エ〜セス、ハアアア〜〜ィイ!』メイデン最高ッ!」


     *     *


 むか~し昔、あったぞな。


 あるところに、おばあさんと猫が暮らしておったそうな。

 おばあさんは日がな一日ヘビーメタルを聴き、猫は動画配信の手伝いをして暮らしておったそうな。


 ある日、猫が配信者からチュールをせしめるべく近所の公園に向かうと、犬とカラスが争っていたそうな。


 犬「これはオラが先に見つけたもんだ、他のモンには渡さねぇだ」

 カラス「何を言うだ。これはみんなのモンだ。ひとりじめは許さねぇ」

 猫「これこれ犬どんにカラスどん、これは一体どうした事じゃ。よかったら訳を話してみてはくれんかのぅ」


 話を聞けば、見つけた地蔵様を自分のものにしようとして、犬とカラスは争っているのでした。


 猫「犬どんの言う事はもっともだ。カラスどんの言い分にも一理ある。…………ならば戦争だだだ!!」

 地蔵様「私のために争わないで」


 一方、その頃おばあさんは——


『……ハ~イウェェイ、スタアアア〜〜! パープル最高ッ!!』


 ノリノリでありましたとさ。


 めでたし、めでたし。



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