第3話

舌が回らぬ俳優に、客の心を動かせるはずがない。

 わしらは毎日、ばかばかしいほどの早口言葉を繰り返した。「隣の客はよく柿食う客だ」――千回言ってみろ。舌がもつれるたび、自分の未熟さを突きつけられる。

 だがな、早口言葉の鍛錬はただの発声訓練ではない。息を整え、頭を研ぎ澄まし、瞬時に感情を乗せるための道具だ。言葉が滑らかに出れば、観客の心に迷いなく届く。

 俳優にとって声は武器だ。刀の錆を落とすように、言葉を磨き続けねばならん。

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