美化

なな

第1話 本音と影響

「お母さん‼️」


弥生は、電話を受け、すぐさま、会社に休暇を申し出、病院にかけつけた。

今から、夫に、子供の保育園のお迎えを頼まなければいけない。


最近、母は、何度も意識不明で病院に運ばれている。

介護施設に預けてから、頻繁に、弥生の所に電話がかかってきていた。


今回、救急医療センターの医師達は

弥生の母親を何時間も懸命に措置し、

弥生の母は、一命を取り留めた。


「ありがとうございました。」

弥生は医師に頭を下げた。


医師は、なぜか唐突にこう切り出した。

「お母様も、もう高齢ですし

今回は、措置がうまくいって命を繋ぎましたが、今後は、延命措置について、ご家族でよく考えられたらいかがかと。

ご高齢ですし…苦しむことも多いですし。」


弥生は、眠っている母を見つめながら、自然に涙が出て来た。

医師が言ってることは…なんだろう?

気持ちが溢れてくる。

もう、堪えきれず、弥生は言った。


「延命措置はしないでほしいと、書類に記載しています。

家族は誰も延命措置を望んでいません。

私は、もう20年くらい、介護を続けています。

正直、辛いです。

私にも、生活があります。

子供は小さいし、仕事もあります。

他の家族も親戚も、母の介護は私に任せきりです。

こんなこと、言ってすみません。

でも…先生が

母を助けない方がいいと思うのなら、母が生きるのが苦痛だと思うのなら、母は、一体、誰のために、何のために生きているのかと。


20年の介護の間、私の心にあったのは…母への愛は、もちろんありました。

でも、正直、それだけじゃないです。

私は…」


これ以上は、言ってはいけないと

いくら本心でも

いくら表現の自由が許されていても

言ってはいけないと、弥生は黙った。


医師は…若い男性だった。

おそらく、二十代。

「ここは、救急医療を扱ってます。

救うことが任務なので…」


医師もそれ以上は、何も言わなかった。



その件から数カ月後、

救急車で運ばれた弥生の母は、

前回までと、違う病院に運ばれた。


その数日後、弥生の母は

息を引き取った。


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