あなたは心の支え

冴蔓湖禽

第1話

 休み時間友達と喋っている時に、ブルル、とスマホが震えた。村山梨乃は通知を見てニヤニヤと嬉しそうにスマホを手に取る。


「なになに、嬉しそうじゃん。誰、彼氏でもできたー?」


 梨乃の様子に、前の席の真由美が探りを入れてくる。


「んーん。相変わらず出会いはないよう。あのね、最近これ使い始めたの」


 梨乃はスマホの画面を見せる。LINEのようなメッセージのやり取りがそこには表示されていた。


「何?マッチングアプリ?」

「違うよー。って、違うとも言い切れないのかな。ルミナスってアプリ知ってる?匿名のSNSなんだけどさ、めっちゃ治安良くて。好きなこととか、その日の呟きとか登録しておくと、似た趣味の人からメッセージが来て、やりとりできるんだけど、嫌なこと書かれたりしたらすぐブロックできるし、個人情報とか書こうとすると警告出るし、画像は載せられないし、気の合う人と一対一で言葉だけで繋がれて、励まし合ったりしてすごい快適なの」


 まくしたてる梨乃に、真由美はちょっと驚いている。


「めっちゃ推してくんじゃん。気になるわ」

「アルファベットで、LUMINOUSって検索してみて」

「ていうか、学校のあるこんな昼間っからメッセージ送ってくるなんて、ニートか引きこもりか独居老人なんじゃないの」

「良いじゃん!別に独居老人でも!本当にいい人に当たると癒されるんだよー!」


 梨乃が少し怒ったように、両腕を上に伸ばし真由美をポカポカ叩く真似をする。真由美は大笑いしながらそれを避けるように身を引いた。


 そこへ、教室の前のドアから、担任教師の汐田が顔を出して莉乃を呼んだ。

「村山、ちょっといいか」

 汐田は眉根を寄せて深刻そうな顔をしている。何か怒られるようなことをしただろうか、梨乃はおずおずと汐田の前へ出た。汐田は梨乃を廊下へ連れ出した。


「落ち着いて聞いて欲しいんだが、さっき村山のお父さんから連絡があって、お母さんが亡くなったそうだ」


 え?梨乃は意味がわからない、という顔をした。だって、お母さんは朝まで元気だった。亡くなるはずはない。汐田は続ける。


「だから、今から帰りの支度をして、職員室まで降りなさい。高梨先生が車で警察署に送ってくれるそうだから」


 警察署?病院とかではなくて?は?何で?

 呆然とする梨乃を見てため息をつき、汐田は真由美に「村山の家族に不幸があった、帰るから準備を手伝ってくれ」と伝えた。

 席に戻り、心配そうに青ざめる真由美の手を借りて荷物をまとめた梨乃は、汐田と真由美に付き添われて階下の職員室へ行った。


 そこから先はよく覚えていない。連れて行かれた警察署の小部屋のドアの前に、村山家の三人は集まっていた。父と梨乃、そして妹の紗千。

 ドアの向こうの部屋の中には、遺体の入った納体袋らしきものが見えた。

 しかし、母の遺体と対面できたのは父だけだった。あまりに死体の損傷が激しいので、子供達には見せないほうが良いと、警察官がアドバイスしたからだ。

 母は、駅のホームから電車の前に飛び降りたのだという。

 おかしい。そんなはずはない。朝までは、母は何も変わらず明るく笑っていたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る